研究課題/領域番号 |
25505007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 知子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (80598756)
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研究分担者 |
鈴木 登 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (40235982)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ケモカイン / 網膜幹細胞 / Rhodopsin陽性視細胞 / Green opsin陽性視細胞 |
研究概要 |
網膜組織は中枢神経系由来のために再生能を持たない。各種の幹細胞から視細胞を分化誘導して移植することで視覚の再獲得が報告されているが、多くは細胞浮遊液を損傷網膜に注入するため 2次元画像を再生網膜上で再構築することは難しい。我々は視細胞前駆細胞株を樹立して、これを用いて成熟視細胞シートを作成することに成功している。この成熟視細胞シートは、種々のケモカインと培養する、あるいは網膜神経前駆細胞と重層培養することでBetaIIItubulin陽性の長い軸策をもつまでに成熟分化する。そこではある種のケモカインが、その分化調節と軸索延長に重要に関わることを見出した。同様に、ある種のケモカインの受容体の選択的な阻害薬では網膜幹細胞からRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞への分化を抑制した。一方、ある種のケモカイン培養系への添加はRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞への分化を、それぞれ別々に強く増強した。これらのケモカインを応用することで高純度のRhodopsin陽性視細胞のシートを作成することに成功した。一方、Green opsin陽性視細胞での細胞シートは作製に成功していない。生体内では、網膜組織ではRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞が網膜上の局在に応じて異なる比率で存在するが、現在の問題点としては、この局在に応じた細胞の分布をもたらすことが出来ていない。我々はこの再生神経網膜組織シートをマウス網膜損傷モデルに移植してその生着と視力の回復を目指している。網膜損傷モデルへのシート移植後に再生網膜上で二次元画像を再生することを最終目標として現在実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、これらのケモカインを応用することで高純度のRhodopsin陽性視細胞のシートを作成することに成功している。一方、Green opsin陽性視細胞では高純度の視細胞シートは作製に成功していない。生体内では、網膜組織ではRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞が網膜上の局在に応じて異なる比率で存在するが、現在の問題点としては、この局在に応じた細胞の分布をもたらすことが出来ていない。今後は、上述の2種類のケモカインを様々な濃度で、それぞれ異なるタイミングで加える。おそらくは個体発生で網膜が発生する時に上述の2種類のケモカインがどのような時期にどのような濃度で発生中の網膜組織に存在するのかを明らかにする必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
我々はマウス iPS細胞に pax6遺伝子を導入した後、限界希釈法を用いて視細胞前駆細胞株を作成した。この細胞を用いて温度感応性ポリマーを応用して視細胞前駆細胞シートを作成出来た。このシートは種々の成長因子・ケモカインに反応してRhodopsinを細胞質全体に持つ杆体視細胞シートに成熟する。一部はGreen opsin陽性の錐体視細胞にも分化する。まず樹立した高純度視細胞を温度感応性ポリマー上で培養することで、視神経細胞シートを作成する。この方法では、既に視細胞が高度なシナプス形成を行なっている上に、シート回収時に蛋白分解酵素を用いていないため、シート構成細胞間の高次構造とそれを介した相互作用は保たれている。 このiPS細胞由来成熟視細胞シートは単独でも種々のケモカインと培養することでbetaIIItubulin陽性神経細胞とシナプス形成することができた。即ち視細胞はシナプスを介して網膜神経ネットワークを構成することができた。生体内では、網膜組織ではRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞が網膜上の局在に応じて異なる比率で存在する。現在の問題点としては、この局在に応じた細胞の分布をもたらすことが出来ていない。今後は、はじめに個体発生で網膜が発生する時に上述の2種類のケモカインがどのような時期にどのような濃度で発生中の網膜組織に存在するのかを明らかにする。その成績に基づき、上述の2種類のケモカインを様々な濃度で、それぞれ異なるタイミングで加えることで、個体での発生を模倣して網膜の局在に応じた視細胞の分布をもたらすことを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、様々な成長因子やケモカインの組み合わせを10種類以上、替えて実験を行うことがRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞の分化誘導には必要と想定していた。実際には幸運にも数種類目の組み合わせ実験で当初の目的である細胞を分化誘導する事に成功した。 さらに当初は、細胞の純度、精製度の観点から、モノクローナル抗体を用いた細胞ソーティング実験を予定していた。我々の見出したプロトコールは、非常に効率的で細胞ソーティング実験を必要としないほど、高純度の細胞が得られることがわかった。そのため、簡便な方法で費用負担も軽く、上記視細胞が得られ、使用した経費は少なくて済みました。 我々が樹立した網膜幹神経株を用いてを視細胞を効率良く分化誘導することができた。これを用いて温度感応性ゲルを利用して網膜視神経細胞シートの作成を行うが、この実験の費用として使用する。具体的には十分量の神経細胞を温度感応性gelation polymer(TGP)でコーティングされた培養皿で培養する。短期間培養維持された後、各種のケモカインを細胞シートに添加し、より長く伸長した軸策を持つように培養を行う。当初計画では、経費節減のため96穴プレートを使用する予定であったが実験がやりにくい場面に遭遇している。次年度使用額は実験のスケールアップを行い48穴プレートを使用して、種々の成長因子・ケモカインを様々なタイミングと濃度で使用する。最終的には生体と近い比率でRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞の混在するシートを作成する。
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