研究課題
中枢神経系由来の組織である網膜組織は再生能を持たない。これまでに各種の幹細胞から視細胞を分化誘導して移植することで視覚の再獲得が報告されている。しかし現在用いられている浮遊細胞の注入移植方法では 2次元画像を再生網膜上で再構築することは難しい。我々は視細胞前駆細胞株を樹立した。この視細胞前駆細胞株は、種々のケモカインと培養することでBetaⅢtubulin陽性の長い軸策をもつまでに成熟分化する。この細胞を用いて網膜視細胞シートを作成することができる。即ち、このiPS 細胞由来の細胞株は当初βⅢ tubulin陽性の神経細胞で特定の培養条件下で高純度に杆体視細胞と錐体視細胞に分化する。具体的には、SDF1存在下での培養により視細胞前駆細胞マーカーである CD73を発現する(陽性率 93%)。培養終了時 (mature)には細胞質は楕円形から長方形となり Rhodopsinは核から離れた細胞質全体に存在する。現時点で精製した場合 Rhodopsin陽性細胞群は Rhodopsin50%程度陽性 Green opsin陽性細胞群は Green opsin45%程度陽性を得られる。これまでに我々は温度感応性ポリマーを応用して神経細胞シートを作成した経験 (特願2012-165108 「神経細胞シート及びその製造方法」発明者:鈴木 登) があり、これを網膜視細胞に応用した。高純度視細胞をシート状に培養して高度なシナプス再形成を行わせて、より生体に近い網膜神経層ことに視細胞層の再構築を行うことが可能になった。今後は、この再生神経網膜組織シートをマウス網膜損傷モデルに移植してその生着と視力の回復を目指す。実際には、まず安定した視細胞前駆細胞シートを作成しこれにSDF1を添加して培養することで、長い軸索を保った単層の成熟視細胞シートが作成できた。
2: おおむね順調に進展している
移植実験を行うのに必要な軸索を保った成熟視細胞シートは作成できた。今後はin vitroでこの細胞シートが光刺激に反応することを確認する。
我々の樹立した視細胞前駆細胞株は株化されていて均質である事とSDF1やMCP1などのケモカインを応用する事で視細胞として90-95%以上の純度への精製が可能となった。そこで本研究の一部では我々のiPS細胞由来視細胞前駆細胞を用いて各種のケモカイン、増殖因子、細胞外マトリックスやそれらの抗体・siRNAを用いて成熟視細胞へと分化するメカニズムを解明する。成熟視細胞は既にシート化することが可能で論文発表を行った。今後は網膜の機能回復に神経節細胞や双極細胞の再生も必要である。そこでES細胞やiPS細胞から誘導した網膜神経前駆細胞を特定の条件で培養することで双極細胞を含む神経網膜全体の再生を目指す。即ち、成熟視細胞シートの上でこの技術を応用することで、視細胞はBetaⅢTubulin陽性の長い軸策をもつ神経細胞と神経ネットワークを再構築することができる。この成熟視細胞シートと「いわゆるinterneuron」シートとからなる再生神経網膜組織シートを視神経挫滅により作成した網膜損傷マウスに移植して宿主網膜での生着と宿主網膜へのintegrationを評価する。
網膜視細胞シートはiPS細胞から作成することは成功した。網膜神経節細胞シートの作成は、その細胞が不安定であるため再現性が乏しい状態にある。
今後は①従来の網膜神経節細胞シートの作成を続けて試みる ②網膜前駆細胞からβⅢtubulin陽性細胞を分化誘導して、BRN3の発現の有無を問わずシートを作成する。以上の二つの方法を試みて、視細胞と軸索を保った細胞から成る網膜神経細胞シートを作成する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
International Journal of Ophthalmology and Clinical Research
巻: 2 ページ: 1-5
Inflammation and Regeneration
巻: 35 ページ: 154-163
Experimental Neurology
巻: 271 ページ: 423-431
10.1016/j.expneurol.2015.07.008.