間脳視床下部領域の脳腫瘍は、多様かつ重篤な視床下部機能障害をきたす。腫瘍は比較的小児期に好発し、視床下部性肥満,下垂体調節障害による低身長、睡眠障害、尿崩症などの症状を呈するが、根治療法は存在せずQOLの低下を余儀なくされている。近年、マウスES細胞から視床下部細胞系への分化誘導法が開発された。このES由来視床下部細胞系(ES-hypo)にはバゾプレシン、オレキシン、αMSH、NPY等多様な視床下部ペプチド細胞が含まれており、再生治療への応用が期待される。 しかし、本分化誘導法の誘導効率は約70%であり、残りの30%には未分化細胞が残存する。これらの細胞は高い増殖活性を示し、視床下部ニューロンの生存を阻害するため、視床下部前駆細胞を早期に純化する必要があった。本研究で視床下部前駆細胞以外の細胞に特異的に発現する表面抗原を複数同定した。これらに対する抗体カクテルを用いて細胞の蛍光標識を行い、磁気ビーズを用いて細胞を分離したところ前駆細胞の回収率が約2倍に上昇し、生存率も顕著に改善された。 この方法によるES-hypoを、脳定位手術により視床下部領域破壊により高度な肥満を呈する疾患モデル脳に移植した。移植時、VGEF(血管新生)およびROCK阻害剤(神経細胞死阻害)を添加したマトリゲル等に細胞を懸濁した。移植30日後、摘出した脳の組織学的検討により視床下部組織へのオレキシン、MCHおよびNPYニューロンの生着を確認した。VGEFおよびROCK 阻害剤は有意に生着率を向上させた。一方、摂食量、尿量などの生理的指標は特に変化せず、有意な治療効果は認められなかった。 その原因として、移植細胞の不足、移植細胞の宿主視床下部ニューロンとの回路形成の問題、移植後観察期間が短いなどの原因が推察される。今後さらに実証実験を継続する予定である。
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