研究課題/領域番号 |
25510005
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
井上 孝之 岩手県立大学, 社会福祉学部, 准教授 (40381313)
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研究分担者 |
音山 若穂 群馬大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40331300)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 被災地 / 研修ニーズ / 園内研修 / レジリエンス / メンタルヘルスケア / 対話 |
研究実績の概要 |
2014年度は、これまでの研究の成果を各方面の学会等で発表する機会を得た。研究対象としている、岩手県沿岸部と福島県中通りの保育施設の施設長や教職員に対するインタビューを中心に研究を進めた。その結果、東日本大震災の津波による甚大な被害のあった岩手県沿岸部のA町では、新しい園舎ができたと同時に、さらに新しいメンタルヘルスケアが必要な状態になっている。これは、大震災で園舎が被災し、大掃除を経て、一時期を過ごし、高台に仮設の保育施設を整備した教職員と、新園舎完成後に採用された教職員との微妙な関係である。被災した保育施設から仮設保育施設へ避難し、自分の家庭や家族も被災している教職員が何も整っていない仮設保育施設から、子どもたちのために一丸となって震災からの復興を目指していた頃は、教職員に一体感があった。しかし、新園舎に移動することにより、施設長は新園舎を守ろうとする責任感に強く苛まれている。震災発災時から勤務する保育者らも、新規採用の教職員との間に溝を感じてしまうことがあることが明らかになった。 また、福島県中通りの保育施設では、放射線への健康被害を避けるために、戸外活動を自粛せざるを得なかった。しかし、除染や放射線量の低下に伴い、園庭での外遊びが可能になったにもかかわらず、幼児は園庭や遊具を使った遊びを知らず、5歳児も3歳児と同様に始めて「園庭」に関わるため、保育者が常に近くで指導する必要があった。ところが、震災後に採用した教職員は、砂場での活動を経験しておらず、園庭活動再開後の課題が明らかになっている。さらに、震災当時の乳児や震災後産まれた子どもの保護者には、保育者からの支援ニーズの高い保護者もおり、オムツやミルク等の支援物資が何もせずに手に入ることが、親としての育ちに影響を与えているものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は、日本保育学会において、研修に関する学会シンポジウムを開催するなど、研究成果の一端を紹介することができた。また、日本感性福祉学会では、大会基調シンポジウムに登壇し、保育者養成にかかる研修手法のあり方についても研究の一端を示すことができた。さらに、全国保育士養成協議会全国セミナーにおいては、分科会でホールシステム・アプローチの手法を、分科会参加者に実演した。関係者によるとかなり好評だったと聞いている。当日のファシリテーターとしても、参加した保育士養成校教員の満足度は理解できた。 学会発表では、日本保育学会、日本教育心理学会、全国保育士養成協議会研究大会等において、東日本大震災被災地における現在の状況を精力的に紹介していきた。 昨年度からの課題①~③も継続して行っている。被災地の教職員の様子はこれまでの想像とは全く異なり、新しい課題も浮き彫りになってきている。次の①と②は昨年度とほぼ同じ課題である。③と④は2015年度に検討をするものである。①保育者研修に適用する際の問題点の摘出と論点の整理、②被災地保育施設のホールシステム・アプローチを取り入れた園内研修のサポート、③カナダのワークショップの手法の日本語版としての適応性の検討、④園内研修の評価法の検討 以上のことから、概ね順調に進展していると捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
東日本大震災の¥保育者のケアニーズは、復興ととも減るわけではない。むしろ、復興の局面によって様々な様相を示し、これまでよりも、課題は悪化しているとさえ、捉えられる。そこで、今後は、対象とする岩手県沿岸部と福祉県中通りの保育施設のケアニーズの変化もまとめながら、現在のニーズに合わせた研修や相互のファシリテーションについて検討し、評価方法を検討していく。 さらに、園内研修で行っている対話型のホールシステム・アプローチの手法を、研究の対象としている岩手県沿岸部、福島県中通りにおいて、共同研究者らとシンポジウム等で紹介し、疲弊している保育施設の教職員への広げていくことを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張を取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
岩手県沿岸部保育施設、福島県中通り保育施設
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