研究課題/領域番号 |
25510015
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
門林 道子 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (70424299)
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研究分担者 |
城丸 瑞恵 札幌医科大学, 保健医療学部, 教授 (90300053)
伊藤 武彦 和光大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60176344)
本間 真理 札幌医科大学, 医学部, 助教 (90423780) [辞退]
佐藤 幹代 自治医科大学, 看護学部, 准教授 (00328163)
仲田 みぎわ 札幌医科大学, 保健医療学部, 講師 (50241386)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クリエィティヴ・ライティング / セラピューティック・ジャーナリング / 筆記療法 / ケア学 / 補完療法 / 自己洞察 / 自己肯定 / 自己の再構築 |
研究実績の概要 |
本研究は、「書く」ことがケアとして有効と成り得るのか、臨床応用としてがん体験者に行った研究の結果を分析、考察し、その成果について検討することを目的としている。研究にはがん闘病記の研究を通してナラティヴ・アプローチに関わり「書く」ことの意味や意義について追究、論証してきた社会学の研究者(代表)と臨床に関わりがん患者の苦痛緩和の介入などで実績をもつ医学・看護学、心理学の研究者らが多領域の「ケア学」で協働した。日本での先行研究がほとんど見当たらないため、欧米で執筆された論文を精読し、方向性の確認、方法論の確定までに時間を要した。2つの大学での倫理審査承認後、協力者への説明会を行い、2014年10月から2015年3月まで計6回(月に1度、各90分)のセッションを行った。全セッション終了後に協力者へ個別に各1時間程度の半構造化インタビューを実施し、内容を協力者の許可を得て逐語録を作成し毎回セッション終了時のアンケートの回答とともに分析、考察し、有効性を検討した。「書く」ことは、自己を振り返ったり、自己の内面をみつめ、自己肯定感を伴う自己再構築の機会となっていた。さらに書いたことをグループで話し合うことによって、体験を共有し共感でき、このような場や仲間の存在がまた、がん体験者にとって前向きに生きるための一助となることが明らかになった。 クリエィティブ・ライティングがデイケアなどに取り入れられ、実態調査なども行ってきたヨーロッパで、2015年5月EAPC(欧州緩和ケア学会:コペンハーゲン)で成果発表したほか、EAFONS(東アジア看護学研究者フォーラム2016年3月)で発表、2016年7月にはウィーンで開催されるISA(世界社会学会)フォーラムで発表が決定している。また、総論的な論文を日本保健医療社会学会へ投稿したほか親密性の構築の過程に着目した論文など2本の論文を今後投稿予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2013年度は、クリエィティヴ・ライティングやセラピューティック・ジャーナリングに関する英語の文献を精読し、方向性の確認などを行ったために、進捗状況は遅れ気味であったが、その後倫理審査に始まった2014年度以降は順調に進んで、2015年3月には第6回目、最終セッションを終えることができ、その後続けて協力者へのインタビューも無事に終了できた。 その後、2015年6月、協力者各自にインタビュー逐語録内容の確認を経た後、インタビュー内容やアンケート調査の質的・量的両面での分析や考察に順調にとりかかることができた。「『書く』ことでのケア」臨床応用の試みは、わが国では先駆的な取り組みであり、インタビューやアンケートからの分析から「『書く』こと」で思いが整理されたり、内面を見つめる、振り返ることができる、さらには重い気持ちの軽減や生命の大切さや前向きに生きることの重要性を認識する機会となっていることがわかり、「書く」ことが個人に与える意義が明らかになった。さらには、共有体験をもつ人々の集まる機会そのものががん体験者に与える意味も重要であることがわかった。研究成果について現在学会での発表や論文投稿を続けており、今後も積極的に伝えていく予定である。したがって、現在までの進捗状況は、2014年度以降は概ね順調に進展しているととらえている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、「書く」ことの臨床応用での検証を行い、そのケアとしての有効性が示唆されたことでがんをめぐるひとつの補完療法としての可能性を見出せたと考える。さらに、書いた後にディスカッションを行ってメンバー間で話し合うという新しい援助モデルの提起をも行えたのではないだろうか。「書く」ことの意義の再確認と、体験を共有し語り合う場の存在がケアとして有意義であることがこの研究で実証できた。しかしながら本研究は、協力者が乳がん、婦人科がん体験者わずか5名という限られたなかでの実践であり、この試みをがん患者への補完的ケアとしてモデル構築していくにはさらなる実践、検証が求められる。 3年間で得た検証の成果を引き続き発表すると同時に、次の「『書く』ことでのケア」臨床応用のモデル構築を目指して、継続研究を視野に入れての今後の研究の推進方策も検討していきたい。たとえば、今回の結果から今後の課題としては、まずプログラムの構成における時間的内容的見直しが挙げられる。6回ではなく10回くらいあったほうがよいとの意見が複数の協力者から寄せられた。ブレイクタイムの体操も好評であり、5分では短かいとの意見もあった。「話し始める人がいたため集中して書けなかった」という指摘もあり、書いている間は話さないようにするというルールづくりも必要かもしれない。書くテーマをどのように選ぶか、振り返りや内面をみつめるなかで、テーマによっては辛い思い出などが呼び起こされ、負の感情が引き起こされる可能性もないとはいえないだろう。そのような場合にどう対処するか。本研究では全セッションに医師が加わるということもできたが、より具体的な検討が求められる。 本研究では、乳がん婦人科がん体験者の協力を得たが、対象をどこまで広げるか、といった課題の検討も今後、研究を継続して進めていくときには不可欠であり、メンバー間で十分に対応していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「書く」ことでのケアセッションについて、当初協力者の人数を最多で12名と想定し、交通費を含む謝金、文房具などの諸経費、インタビューでの逐語録作成費やセッションで書いた用紙のファイル化などを予定し予算を計上した。しかしながら、セッションに協力をした方々の人数が7名であったこと(最終的に協力者として、検証の対象としたのは5名)、また全員が市外など遠方からではなく札幌市内からの集まってくださっていたことなどから、予算的に少々余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
7月にはISA(世界社会学会)第3回フォーラムがウィーン大学で開催される。そこで、Clinical Sociology 分野で Clinical Application of Caring for Cancer Survivors through Writing to Originated a Sociological Studyと題した口頭発表を行うことが決定している。ヨーロッパでは、クリエィティヴ・ライティングをがん体験者のサポートグループや、ホスピスでのデイケアに取り入れられ、補完療法としてもその有効性が確認されている。日本ではまだそのような試みは見当たらないが、本研究グループがそれを目指してきた。闘病記の社会学的研究からスタートしたこの研究でこれまで実証できた成果を発表し、海外、また臨床社会学という分野でもしっかり伝えたいと考え、そのための旅費や宿泊費、参加費などにまずは充てたい。
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