研究課題/領域番号 |
25510021
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研究機関 | 羽衣国際大学 |
研究代表者 |
渋谷 光美 羽衣国際大学, 人間生活学部, 教授 (70567635)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フィリピン / ケアギバー養成教育 / デイケアセンター / 子どものケア / 人権教育 / 児童養護施設 / 児童労働 |
研究実績の概要 |
国内のプレ調査として、東京都と福岡県の介護老人福祉施設において、EPAによる介護福祉士候補生へのインタビュー調査を実施した。この調査では、日本の施設介護に従事する経験等を通じて、自国のケア事情との相違点など改めて気付いた出身国の介護に関する情報収集を意図していた。しかし、衣食住の生活支援という意味では特別な相違はないように感じているという結果が多かった。発展途上国である出身国では、介護施設等での介護経験の機会自体が少ないことや、家族介護が大半であることなどが、その一因として考えられた。そのようなプレ調査の結果から、国内における外国人介護職員へのインタビューという調査方法により、その人の出身国におけるケア事情の一端を把握するという点には困難性が伴うことが把握された。そのため、さらに現地調査を実施できる可能性を追及すべきであるという判断をおこなった。 フィリピンのケアギバー養成教育課程が、子どものケア教育課程を有している点に着目した。子どもの教育とケアが実施されている国立児童養護施設と、公立デイケアセンター(保育所)の実情を調査し、検討した。デイケアセンターの複数担当制等による教育とケアの質的向上を目指す上で、子どものケア人材としても、ケアギバー資格保有者が寄与できるのではないかと考えた。その点について、ケアギバー養成学校の教員と、公立保育所教員にアンケート調査を実施した。貧困地域では、修学前教育としてデイケアセンターの設置を推進するとともに、保護者教育としても位置付けている実情が把握できた。またデイケアセンターの拡充施策としても、民間のイニシアティブによる開発を奨励している。民間デイケアセンターにおいては、ケアギバーの雇用事例が確認できた。 ケアギバー資格保有者の子どものケア人材としての活用は、ケアギバー養成教育の質的向上にもプラスの影響をもたらすのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EPAの介護福祉士候補生の受入れ実績のある、国内施設でのプレ調査を実施した。東京都や福岡県でのプレ調査では、日本の施設介護の現場や研修を通じて、自国のケア事情との相違点など、改めて気付いた出身国の介護に関する情報を収集することを意図していた。しかし、衣食住の生活支援という意味では、特別な相違はないように感じているという結果が多かった。発展途上国である出身国では、介護施設等での介護経験の機会自体が少ないことや、家族介護が大半であることなどが、その一因として考えられた。そのような結果も踏まえ、九州の施設のEPA介護福祉士候補生の出身校であった、フィリピンのダバオにある、日系のミンダナオ国際大学への訪問を実施した。大学での見学やインタビュー等を通じて、ケアギバー養成教育の内容と、日本への人材派遣情況について把握した。 さらに、フィリピンにおけるケアギバー資格保有者は、国内外のホームヘルパーやナニー(ベビーシッター)としての需要に対応することを目的としている人材養成課程となっている。そのため、ケアギバー養成教育の内容としては、援助対象者を高齢者、特別なニーズを有する障害のある人とともに、子どもを含んでいる。介護人材養成教育として、子どもへのケアと教育という教育課程を包含する意義を、フィリピン国内の子どもを取り巻く状況、貧困や児童労働問題という課題に対する施策を踏まえながら検討し、できるだけ現地の実情の一端を把握できる調査としても実施したいと考えていた。フィリピンのメトロマニラでの具体的なフィールドが確保でき、インタビューとアンケート調査を実施するとともに、その研究成果を論文として社会的に発信できた。このことは、EPAに関連したアジア(フィリピン、ベトナム、韓国)での介護人材養成の動向を把握し検討する上で、有用な視点を拡大して考察することにつながり、重要な観点を提供するものであった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は科研費研究の最終年度として、ケアに関連した実情の一端を把握し検討するために3カ国(フィリピン、ベトナム、韓国)で実施した現地調査結果について、再度検討し考察していく。 まずその検討をするにあたっては、フィリピン、ベトナムなど、アジアの発展途上国の実情といかに向き合うべきかという観点からのアプローチを考える。そのような問いに呼応していると捉えられた、イギリスの1980年代のワールドスタディーズを視座とすることも試みている。また貧困問題や児童労働などの様々な健康状態にかかわるケアを検討するということから、国際保健医療分野の観点も視野に入れて、世界の健康とケアに関する動向にも留意しながらケア事情とあり様に関して、文献調査を行い、考察しまとめていきたい。医療従事者とケアに携わる専門職、ケアラーとの関係性、さらに支援団体や支援のあり方などに関して、情報収集や先行研究レビューを通じた課題把握についての研究を進める。マクロな視点からの調査対象国の事情把握につなげるとともに、日本との関係性などについても展望していければと考える。 また、調査対象国のそれぞれのケア事情と介護人材養成教育等に関する現地調査を踏まえた分析を行う。各国の状況が異なり、言語的な課題もあることから、かなりミクロ的な調査であり、対象国のケア事情の一端に過ぎず、単純比較もできない。しかし、少なくともそのような現実は踏まえて考察していくべき基礎調査として扱い検討した点について、まとめていく。今日日本の介護人材不足に対する施策として、アジアの国からの受入れを先行的に実施している実態を把握、分析しながら、受入れのシステム化を図ろうとする動きが活発化してきている。日本がさらに送り手国のケア事情に対する関心を高め、次世代の若者にいかに教授していくべきかという教育的側面に関しても文献研究を行い、課題と展望について提示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一の理由は、日本での予備調査の結果から、計画していた国内調査方法では調査結果を得ること自体が困難なことが明らかとなり、フィリピンでの調査に変更したこと、第二に、フィリピンでの調査フィールド確保ができ、計画した調査が実施可能となったこと、第三に、パソコンの突然の故障による対処が必要となったことが、次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算内で、研究成果をまとめて刊行する費用分と併せて使用する計画である。
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