本研究の目的は、文化人類学的かつ実践的方法論を活用し、モバイル・メディアの様々なあり方を把握しつつ、メディア論的展望を見出すことにあった。日本ではケータイと無線インターネットの大衆的普及が早かっただけに、モバイル・メディアのメディア論的変容と社会的影響についての研究が活発に進められ、いわば「ケータイ学」と呼ぶべき、独自的かつ先駆的な探求領域を開拓してきた。本研究は、その成果を継承しながら、片方では限界と課題を乗り越え、モバイル社会をとらえるための知見を探索する試みである。
本研究はメディア研究と文化人類学、情報技術論を架橋する学際的な位置付けを持つ。具体的に① 文化人類学とメディア論を架橋する:モバイル・メディアの日常性に取り組む ② 過去と未来を架橋する:モバイル・メディアの実践史に取り組む、③ 地域と地域を架橋する:ケータイの比較文化論に取り組むという三つのアプローチをとった。(具体的な内容については別途の報告書を参照)
本研究の成果は、①モバイル・メディアを研究する新しい方法論の検証 ②文化的実践としてのモバイル・メディアのあり方に関する知見という二つに大別できる。多岐にわたるモバイル・メディアのあり方を探るプロジェクトであっただけに、メディア論、文化人類学、社会情報学を架橋する学際的な研究成果が見出された。単著本2冊を含め、書籍や論文など13本(2017年出版予定を包含)の出版物を出した。和文(5件)だけでなく、英語(6件)、韓国語(2本)でも出版し、国際的にも影響力を高めたのは評価に値する。そのほか、4年間17回にわたって国際学会や学術会議で発表の機会をいただき、積極的に研究成果を共有した。とくに、フィンランド、オーストラリア、韓国など、モバイル研究分野で先進的な業績を出している地域の研究者との交流を深め、人的ネットワークを構築し、今後の協力基盤を築いた。
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