研究課題/領域番号 |
25511019
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 倉敷芸術科学大学 |
研究代表者 |
松岡 智子 倉敷芸術科学大学, 芸術学部, 教授 (90279026)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ルーヴル・ランス / ポンピドゥーセンター・メッス / グッゲンハイム・ビルバオ / ジャック・シラク |
研究概要 |
平成25年度の研究では、ドゴールからはじまりミッテラン大統領の時代に至るまでのフランスの政策とは明確に一線を画している、ジャック・シラク政権下の美術館構想によって設立された美術館のなかから、平成24年に開館したルーヴル美術館の分館「ルーヴル・ランス」を中心に視察し、その独自性について考察することを目的とした。 国内外で収集した図書及び新聞・雑誌記事等の文献資料から、「ルーヴル・ランス」はパリのポンピドゥーセンターのメッス分館と共に、スペインのグッゲンハイム美術館ビルバオ分館(平成9年設立)が疲弊した地方経済を活性化させたことに刺激を受け、シラク政権下に構想されたことが明らかとなった。 さらに、筆者はビルバオ、メッス、ランスの3都市で以上の美術館を視察し、現地を訪問しなければ見て知ることのできない建築、作品の展示方法、展覧会や教育普及活動の内容、設立経緯の比較検討を試み、論文「『越境』する美術館ーポンピドゥーセンター・メッスとルーヴル・ランスー」(『倉敷芸術科学大学紀要』第19号、平成26年)にまとめた。 また、同政権下、パリのルーヴル美術館第8番目の部門として、イスラム芸術部門が設置され(平成14年)、その後計画された新ギャラリーが平成24年に開設され、その視察も行った。そして、来年に開館予定の「ルーヴル・アブダビ」のプロジェクトも同政権下において進行していたものであり、今後も「越境」するルーヴル美術館の調査を続行する予定である。なお、以上の研究を行う過程で、パリのケ・ブランリー美術館、ユダヤ芸術歴史博物館、国立移民史博物館とともに、平成17年にマレ地区に開設されたショア記念館もまた、同政権下の時代に誕生し、シラク前大統領自身が強い関心を抱いていたことが明らかとなり、同政権下の美術館構想の重要な事例の1つに加えて今後、調査を進めてゆく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の文献資料収集と現地での調査の結果、ポンピドゥーセンター・メッスとルーヴル・ランスは、平成13年から本格的に着手したシラク政権下の脱中央集権政策の一環として、スペインの「ビルバオ効果」に刺激を受け、疲弊した地方経済をパリのビッグ・ミュージアムのブランド力を起爆剤にして活性化させようとする、各々の地域圏や地方自治体の強い要望により実現したことが明らかとなった。 そして、しばしば「マクドナリゼーション」と揶揄されるように、単なるフランチャイズ・チェーンと批判されるグッゲンハイム財団の分館システムとは異なる「アンチ・ビルバオ」を目指す。現地調査から、周囲の景観や利用者とのバリアフリー化、これまでにない作品の展示方法や企画展の内容への試み、また、地域や近隣国の美術館、学校とのネットワーク作りにも積極的に取り組もうとしていることが、現地での調査により明らかとなった。しかし、特にルーヴル・ランスは開館して間もないため、今後も調査を持続したうえで「ランス効果」の是非を明らかにする必要がある。 ルーヴル・アブダビのプロジェクトもまた、シラク政権下において進められたもので、左派は棄権したが、与党国民運動連合(UMP)を中心に支持を取り付け実現させた。そして、開館は来年の予定であるため、建築・作品の展示方法、展覧会等の活動に関しては今後、現地で調査を行う予定である。 さらに、パリのルーヴル美術館に開設されたイスラム芸術ギャラリー、国立移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館、とりわけ新たに加えることとなったショア記念館の構想については、今後もより多くの文献資料の収集と現地での調査、また関係者からの聞き取り調査を行い、研究を続行してゆく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカの民族資料を展示した「パヴィヨン・デ・セッション」(平成12年)に続き、新イスラム芸術ギャラリーの開設、また、「ルーヴル・ランス」から「ルーヴル・アブダビ」へ展開する分館の設立など、急激な変貌を遂げるルーヴル美術館についての、シラク政権下におけるプロジェクトの考察は、本研究の1つの重要な柱である。さらにケ・ブランリー美術館、移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館、ショア記念館までのそれぞれの事例を集約させた壮大な美術館構想の全体像を描き、美術館・博物館から見える転換期の現代フランスの政治と文化の諸相を浮き彫りにすることを、目的としている。 そのため平成26年度は前年度に引き続き、東京を中心とした国内の図書館や大学、その他の研究機関で文献資料収集を行い、国内の関係者や専門家へ聞き取り調査を行う予定である。さらに、同年9月上旬ー10月上旬、また、平成27年3月下旬に各2週間ほどフランスに出張し、先に挙げた美術館・博物館で開催中の展覧会を見学、また、関係者から聞き取り調査を行い、また、ミッテラン国立図書館を中心に、日本では入手困難な文献資料収集を行う。ただし、上記の出張の時期や期間については、勤務先の大学内の業務の都合や、フランスの美術館・博物館関係者の都合に合わせて、変更する可能性もある。また、研究成果の中間報告として、勤務する大学が発行する紀要に、資料の一部を紹介する論文を発表する予定である。また、美術史学会あるいは日仏美術学会で研究成果を発表し、論文を執筆する予定である。そして、平成27年度も同様に、国内外で文献資料収集や美術館・博物館での建築・展示・収蔵品の調査や関係者からの聞き取り調査を行い、著書出版のための原稿の執筆を開始することを計画している。
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