研究課題/領域番号 |
25511020
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研究機関 | 神奈川県立近代美術館 |
研究代表者 |
籾山 昌夫 神奈川県立近代美術館, 普及課, 主任学芸員 (80393073)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ソヴィエト連邦 / ロシア / アヴァンギャルド / ポスター / ステンベルク / ロトチェンコ / 検閲 / ソ連邦建設 |
研究実績の概要 |
1930年代に旧ソヴィエト連邦で制作された宣伝印刷物の分野横断的な研究を目的とする本研究では、「松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」展図録(平成25年10月)に論文を掲載した後、「今後、国内外の同様のコレクションの情報と照合することによって、さらに高い精度が得られることが期待される」と昨年度の研究実績の概要に記した通り、東京国立近代美術館フィルムセンターの同様資料(袋一平コレクション)との比較を進めた。その成果をまとめた論文が、「グラヴリートの検閲番号等から特定されるポスター発行時期とその考察の展開――旧ソヴィエト連邦における宣伝印刷物の文化学的研究(2)」(平成27年3月)である。そこでは、上記比較によって、これまでの分析の修正と補強を行うと共に、ソヴィエト映画ポスターの代表的デザイナー、ステンベルク兄弟の最初のポスターの制作時期について、従来とは異なる見解を提示した。 検閲番号から、ポスターの発行時期を特定するこの手法が、芸術分野に限らないさまざまな分野の宣伝印刷物に応用されれば、それらのデザインの流行やデザイナー個人の様式展開の分析のみならず、検閲制度そのものや宣伝印刷物の制作過程など、旧ソヴィエトの社会制度の考察にも役立つはずである。 一方、平成25年度以来、資料のデジタル化を進めている1930年代のソヴィエト政府宣伝誌『СССР на Стройке(ソ連邦建設/建設のソ連邦)』についても、アレクサンドル・ロトチェンコやワルワーラ・ステパーノワ、エリ・リシツキーといったアヴァンギャルド芸術家が関わった特定の号に焦点をあてた「前衛的な写真グラフ誌」という従来の解釈に対して、美術史や美学的観点に限らない分野横断的な文化学的観点から新しい考察を進め、平成27年度末までに報告書にまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
松本瑠樹コレクションに含まれるロシア・ソヴィエト連邦のポスターの全容については、平成25年度中にほぼ把握し、拙論「グラヴリートの検閲番号等から特定されるポスター発行時期とその考察――旧ソヴィエト連邦における宣伝印刷物の文化学的研究の一端緒――」(平成25年10月)によって研究の中間報告をした後、平成26年度には世田谷美術館での講演「ロシア・アヴァンギャルドと国家」(平成26年11月)を経て、その研究成果をまとめた「グラヴリートの検閲番号等から特定されるポスター発行時期とその考察の展開――旧ソヴィエト連邦における宣伝印刷物の文化学的研究(2)」(『神奈川県立近代美術館年報2013』平成27年3月)を発表した。 一方、新たな分析対象としたソヴィエト政府宣伝誌『ソ連邦建設/建設のソ連邦』についても、90パーセントのデジタル化が進み、分野横断的な文化学的分析を進めつつあり、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
素材の劣化が著しいために、内容を分析する前にデジタル化を進めている『ソ連邦建設/建設のソ連邦』については、平成26年度を通して90パーセントのデジタル化を終えたが、より慎重な扱いが求められる残り10パーセントについては、期間を延長して平成27年度上半期までにデジタル化を完了する。 一方で、すでに開始している『ソ連邦建設/建設のソ連邦』の内容の分析も継続し、平成27年5月には交付申請時当初の実施計画の通り、サンクト・ペテルブルクの国立図書館等でポスターと『ソ連邦建設/建設のソ連邦』についての補完的な調査を実施する。これを踏まえて、平成27年度第1四半期には、ポスターのデータベースの一部を公開する。 また、サンクト・ペテルブルクでの調査結果によっては、第2または第3四半期にもロンドンの大英図書館等でも『ソ連邦建設/建設のソ連邦』に関する補完的な調査を実施し、その後、同年度末までに『ソ連邦建設/建設のソ連邦』についての報告書を刊行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、交付申請時当初の実施計画以上に進展し、研究成果発表のひとつとして、平成27年度末までに『ソ連邦建設/建設のソ連邦』についての報告書を刊行することを想定して、その費用に充てるためである。また、平成26年度の旅費の使用を控えたのは、平成27年5月に予定しているサンクト・ペテルブルクでの調査、さらには必要に応じてロンドンでの調査を実施することを考慮したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度上半期に『ソ連邦建設/建設のソ連邦』のデジタル化を完了するために研究協力者を引き続き雇用する。また、5月にはサンクト・ペテルブルクの国立図書館等でポスターと『ソ連邦建設/建設のソ連邦』についての補完的な調査を実施する(必要に応じて、ロンドンでの調査も別途実施する)。その後、報告書の作成を始め、その刊行のための見積もりをとって具体化させる。
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備考 |
「松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」展図録(平成25年10月)とその掲載論文については、鴻野わか菜氏による書評が『ロシア語ロシア文学研究』第46号の164-170頁に掲載されている。
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