本研究は、フランスにおける区分所有建物の荒廃に対処する区分所有の管理・処分の実務および法改正の方向を分析し、日本の区分所有法改正論議と比較することを目的としていた。 最終年度の今年度は、1)成果の中間発表を英語(アジア太平洋住宅研究ネットワーク2015年大会)と日本語(日本マンション学会第24回大会)で行うとともに(文献は昨年度実績報告書に記載済み)、2)フランスの不適切住宅対策の調査を実施した。今年度の調査対象を、不適切住宅対策とした理由は、過去2年間の調査で次の2点を明らかにしたからである。すなわちa.2014年の区分所有法改正が不適切住宅対策も改正して合わせて荒廃区分所有の対策としたこと、b.荒廃区分所有建物の専有部分に影響を及ぼす処分を行なったとして調査した全事例において不適切住宅対策制度が用いられていたことである。 3年間の研究を通じて明かにしたことは次の2点である。第1にフランスでは先行していた社会住宅の修復対策に追いつくべく荒廃区分所有対策が進められ、その実務を反映した2014年の法改正では荒廃の予防、荒廃から正常な状態の回復、荒廃から立直れない場合の取壊しという一連の流れで制度が整えられた。第2にフランスと日本の荒廃区分所有建物対策の法制度は、次の4点で比較しできる。1)区分所有管理法制は、フランスでは管理者主導、日本では管理組合主導である、2)区分所有の「荒廃」は、フランスでは管理組合の財務・運営面の機能不全に注目するのに、日本では建物・設備の物理的劣化の注目する、3)荒廃区分所有に対処する法改正は、フランスでは私法の区分所有法と公法の住居建設法典とを合わせて実施しているのに対し、日本では私法の区分所有法と公法でも事業法のマンション建替え円滑化法で行なわれている、4)区分所有のガバナンスモデルとしてフランスでは消費者保護、日本ではコミュニティを想定している。
|