①赤外線レーザーイオン源の開発 フリットと呼ばれる多孔質の金属製薄板を用い、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography; LC)からの溶出液を連続的にイオン化させるために必要となる、LCとレーザーイオン化部とのインターフェイスを作製した。フリット表面から滲出するペプチド水溶液に波長6 μm帯の赤外線レーザーを照射することで試料溶媒の水がレーザー光を吸収し、ペプチド試料を連続的にイオン化させ、質量分析計で検出できることを示した。LCの溶媒として汎用されるアセトニトリルと水の混合溶媒を用いた場合でも、波長6 μm帯の水の吸収、および7 μm帯のアセトニトリルの吸収を用いてペプチド試料をイオン化させることができることがわかった。さらに、赤外線レーザーイオン源を用いてLCと質量分析(mass spectrometry; MS)をオンラインで接続したLC/MSで、ペプチドや薬物の混合試料を分析した結果、LCによる分離とMSによる質量スペクトルの取得を同時に行うことに成功した。
②膜タンパク質のイオン化条件の検討 可溶化剤を含んだ膜タンパク質溶液に赤外線レーザーを照射することで膜タンパク質のイオン化を効率的に行うためには、レーザー波長、レーザー強度、試料溶媒や可溶化剤の影響など様々な項目の検討を行う必要がある。本研究課題では、イオン化用赤外線レーザーの波長を溶媒が吸収ピークを持つ波長3 μm帯、6 μm帯、7 μm帯で変化させ、各波長帯でのイオン化の効率を比較した。その結果、波長が長い吸収ピークの方が溶媒の吸収係数が小さいにもかかわらず、イオン化効率は波長が長い吸収ピークの方が高くなる傾向が見られ、イオン化機序に関する新たな知見が得られた。さらに、イオン化部の圧力を大気圧から71 kPaに減圧することで、イオン信号強度を約2~4倍に高められることが明らかとなった。
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