研究課題/領域番号 |
25513006
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
川上 隆雄 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 客員准教授 (40366117)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プロテオーム / リン酸化 / 分析科学 |
研究実績の概要 |
タンパク質の翻訳後修飾に関する定量的かつ包括的な知見は、細胞の制御機構を正確に理解する上で必須の情報である。本研究では、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) を用いたリン酸化シグナル伝達系の高精度定量法を開発する。一方、LC-MS/MSを基盤としたプロテオーム解析法のうち、安定同位体標識を用いない方法(非標識法)は現在広く受け入れられている。非標識法の成否は、おもに連続測定におけるLC-MS/MSの安定性および測定データの解析手法に依存している。 本年度は、以前に開発した非標識法専用の解析ソフトウェアの改良を試みた。すなわち、データ処理の高速化を図り、合わせて測定データファイルの最新版にも対応した。このソフトウェアは、ペプチド同定のための配列データベース検索を連動させ、データ整列化処理から検出強度情報の出力までの全自動化を実現している。 乳癌幹細胞のリン酸化プロテオミクスに、本ソフトウェアを加えた一連の分析システムを適用した。タンパク質リン酸化酵素Xを siRNAによってノックダウンすると、幹細胞の増殖・生存が抑制された。次に、ノックダウンにともなう細胞内のリン酸化レベルの変動を見るためにリン酸化プロテオミクスをおこなった。すなわち、ノックダウン処理を施した細胞とその対照からそれぞれタンパク質抽出、トリプシン加水分解、およびチタニア処理を経てリン酸化ペプチド混合物を得た。各ペプチド混合物のLC-MS/MSデータを上記のソフトウェアの上で比較したところ、ノックダウン分子そのものや様々な分子群のリン酸化レベルが有意に減少していることが観測された。 以上のとおり、本研究で構築した分析システムは、定量分析のターゲットとなるリン酸化修飾を探索する手段として有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れていると自己評価した。全体の達成度の遅れを取り戻すために、今年度は質量分析データの計量比較アルゴリズムの開発をおこなった。研究実績の項でも述べた通り、従来から稼働していたものに改良を加え、より汎用性の高い運用ができるようになった。また、このアルゴリズムを腫瘍細胞のリン酸化プロテオミクスに応用したところ、リン酸化酵素のノックダウンにともなって増減するリン酸化タンパク質群を同定することができた。定量分析のターゲットとなる翻訳後修飾の探索手段を整備したことは、研究方法の改善につながるものとして重要である。
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今後の研究の推進方策 |
スプレーイオン源の窒素ガス引き込み法に関しては、本年度までで不十分だったシグナルノイズ比の向上を引き続き課題に挙げる。気流が発生しないように窒素ガスの供給量の最適化を図る。 測定のモデル試料として、培養細胞から調製したリン酸化ペプチドの混合物を用いる。リン酸化ペプチドの選択回収には、二酸化チタン (TiO2) へのリン酸基の特異的吸着を利用する。この方法はすでに確立している。 モデル試料を用いた分析では、窒素ガス引き込み法の有無による、リン酸化ペプチドの同定数やイオン検出強度の変動を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究実施の結果、414544円を次年度に繰り越すことにした。繰越額は試薬・器材類の購入費と学会発表に使用する予定である。本研究課題は今年度終了の予定だったが、スプレーイオン源をさらに改善できる見込みがあるので、次年度までの期間延長が妥当だと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の繰越額は、質量分析システム稼働の消耗品に充てる(分離カラム、送液溶媒など)。また、成果発表のための学会年会参加費および旅費にも使用する(1回を予定)。
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