研究課題
基盤研究(C)
がんの進展にはDNAのメチル化を含むエピジェネティックな変化が大きくかかわっていることが近年明らかになってきた。がんの進展に伴うメチル化反応の動態を基質供給、すなわちメチル化反応の唯一の基質であるS-アデノシルメチオニンの代謝に注目して解析する。固形腫瘍を形成している生きた動物モデルを用いて半定量的質量イメージングによるin vivoメタボロミクス解析を行うことで、エピジェネティック変異の形成にかかわるがんの代謝を時空間的に明らかにする。平成25年度は、腫瘍組織を対象とした質量分析イメージングに関する既報および申請者らによる低分子代謝物の検出の実績例を踏まえながら、本研究の目的に適し、対象となり得る代謝中間体の把握と検出方法の検討を行った。質量分析イメージング法では、マトリクスの種類や塗布法を使い分けることで、様々な性質を持つ物質を選択的に検出することが可能であるので、メチル化を経て生合成される代謝物を対象に、最適なマトリクス選択と検出方法の検討を行った。例えば、ポリアミン類はCHCAをマトリクスとして蒸着法で試料に塗布し、再結晶化を行ったときに非常に高感度で検出できることが明らかになった。また、アミノ酸であるリジンはジメチル化されてジメチルリジンに変換されるが、ジメチルリジンの分子量はアルギニンの分子量と非常に近接していて、通常の測定法では両者を分離することが出来なかった。しかし、今回タンデム質量分析を併用することで、同じ組織切片上の両者の分布を比較することが可能になった。これらの検討結果を生かし、次年度は、同位体標識されたメチル化基質を動物モデル、及び培養細胞に投与し、腫瘍でのメチル化反応について検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
がん病巣で起きているメチル化を組織形態と関連付けて解析するためには、質量イメージング法による検出が有効である。分子量が全く同じで、分子内の異なる部位にメチル化を受けたリジンやアルギニンを別々に検出するためにはタンデム質量分析法を用いるMALDI質量イメージングを行う必要が有るが、今年度は、それらの検出方法を標準サンプルおよび動物モデルの組織切片を用いて検討した。その結果、分子量が非常に近いが、構造の異なるジメチルリジンとアルギニン、メチル化位置の異なるメチルリジンを区別して検出する方法を確立することが出来た。
平成25年度は、メチル化された結果生じるメチル化アミノ酸のin situ検出法を確立したので、今年度は、これらの検討結果を生かし、同位体標識されたメチル化基質を動物モデル、及び培養細胞に投与して腫瘍でのメチル化反応について検討を行い、同位体標識されたメチル基が導入された結果生じる代謝物の追跡を行う。
平成25年度は、同位体標識したメチル基供与基質を用いた実験方法の検討、及び動物モデルの組織切片を用いた、メチル化代謝物の検出方法の検討を行った。メチル化代謝物の検出方法の検討は予定以上に順調に進み、分子量が非常に近いジメチルリジンとアルギニンを区別して検出する方法を確立することができた。一方、高価な同位体標識基質を用いる実験は来年度以降に重点的に行うことになり、試薬購入のための資金は次年度使用することになった。平成26年度は、安定同位体を用いた動物実験を予定しており、動物購入費用、動物に投与するための大量の安定同位体標識化合物が必要であるため、当初、平成26年度に予定していた額よりも多くの消耗品費を要する。
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