研究課題
がんの進展にはDNAのメチル化を含むエピジェネティックな変化が大きくかかわっていることが近年明らかになってきた。がんの進展に伴うメチル化反応の動態を基質供給、すなわちメチル化反応の唯一の基質であるS-アデノシルメチオニン(SAM)の代謝に注目して解析した。固形腫瘍を形成している生きた動物モデルを用いて含硫代謝物の半定量的質量イメージングによるin vivoメタボロミクス解析を行うことで、エピジェネティック変異の形成にかかわるがんの代謝を時空間的に明らかにした。具体的にはヒト大腸がん細胞株HCT116を用い、細胞内への硫黄源の取り込みに寄与するCD44の発現量を抑制した細胞株と正常株の比較を行なう事で、細胞内の含硫代謝物の変化を明らかにした。さらに、これらの細胞株を免疫不全動物に移植し、腫瘍塊を作らせた状態でのがん病巣での代謝を比較した。硫黄源の取り込みを抑制した株は、通常の培地中での増殖は正常株と同様であったが、動物に移植して腫瘍塊を作らせた場合には病巣の大きさが明らかに小さかった。次に、がんを栄養する環境の違いによる細胞増殖の変化の原因を特定するため、定量的質量分析イメージングによって、病巣部分の代謝物の推定含有量を比較した。硫黄源の取り込みを抑制した腫瘍では正常の腫瘍に比較してSAM由来の代謝物であるポリアミン類(Spermidine, Spermine)と還元型グルタチオンの含有量が有意に減少していた。ポリアミンは細胞増殖に必須の代謝物である事が良く知られており、生体内の環境下での増殖が抑制されている事と関連付ける事が出来る。還元型グルタチオンは酸化ストレスとの関連が知られており、硫黄源のがん病巣への取り込みを抑制する事で病巣の増殖を抑制する可能性が考えられた。これらの結果はNitric Oxide (2015) 46:102-113に発表した。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
Nitric Oxide
巻: 46 ページ: 102-113
10.1016/j.niox.2014.11.005
Cereb Blood Flow Metab
巻: 35 ページ: 794-805
10.1038/jcbfm.2014.253
Proc Natl Acad Sci U S A
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10.1073/pnas.1515872112