研究課題/領域番号 |
25514001
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小竹 敬久 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20334146)
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研究分担者 |
曽我 康一 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00336760)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アラビノガラクタン-プロテイン / 表層微小管 / MAP65 / 過重力 / 細胞壁 |
研究実績の概要 |
高等植物の重力に対する反応には、重力の方向に対する反応である重力屈性のほかに、重力の大きさに対する反応である抗重力反応がある。高等植物を遠心過重力環境下に置くと細胞の伸長成長が抑制され肥大成長が促進される。この時見られる細胞壁の伸展性低下は、伸長成長の抑制に関わっていると考えられる。また、表層微小管の配向変化も起き、これはセルロース微繊維の配向を変えることで、肥大成長を誘導していると考えられる。これまでの研究で、細胞表層のプロテオグリカンであるAGPの一種AGP4と微小管結合タンパク質であるMAP65-1は、どちらも重力の大きさに従って遺伝子発現が低下することがわかっている。これらは、細胞壁の物性変化や表層微小管の配向変化に関わると予想される。 抗重力反応による遺伝子発現制御メカニズムを明らかにするために、シロイヌナズナのMAP65-1とAGP4それぞれについて、プロモーター領域を段階的(MAP65-1は5段階、AGP4は6段階)に切り詰めてGFP遺伝子と連結したMAP65-1-GFP遺伝子とAGP4-GFP遺伝子を作成した。これらの人工遺伝子をシロイヌナズナの野生型植物に導入し、成長と遺伝子発現との関係を調べたところ、MAP65-1-GFP導入植物では、胚軸において成長とMAP65-1-GFPシグナルとの間に強い相関がみられた。また、プロモーター領域を0.8 kb以下に切り詰めると、極端にシグナルが低下したことから、上流1.0 kb付近に成長と密接に関わるシスエレメントがあると考えられる。しかしながら、遠心過重力環境下での観察では、安定した結果が得られていない。これは、遠心中に植物が倒れるなど二次的な影響があったためと考えられる。AGP4-GFPは、明確な発現変化が起きる部位は茎頂だけであることがわかり、この部位でMAP65-1と同様の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MAP65-1のプロモーター領域を段階的に切り詰めてGFP遺伝子と連結した人工遺伝子を作成し、これらを導入したシロイヌナズナを作出することはできた。また、地上重力環境である1 g重力環境での観察では、伸長成長が盛んな胚軸上部とほとんど伸長成長しない胚軸下部との間に明確なMAP65-1-GFPシグナルの差が見られた。また、MAP65-1-GFPの沈着によって観察される表層微小管の配向の違いも見られた。しかしながら、遠心過重力環境下における発現低下を安定的に観察することができなかった。これは、遠心処理中に一部の胚軸が倒れるなど、適切な遠心過重力環境を作出できていなかったことが原因と考えられる。AGP4-GFPについては、プロモーターを6段階に切り詰めたAGP4-GFP人工遺伝子を作成しこれらのシロイヌナズナへの導入を進めたが、4種類については形質転換植物が得られなかった。原因は明確ではないが、形質転換の効率が悪かった可能性がある。形質転換する植物の数を増やすなどして対応する予定である。プロモーターが全長のAGP4-GFP導入植物は得られており、これを用いて組織によるGFPシグナルの強度の違いや重力の大きさによる発現変化を観察したところ、重力の大きさによる発現変化は茎頂でしか起こらないことがわかった。このことは、MAP65-1とAGP4は伸長成長の制御で同じ組織、同じ時期に働いているわけではないことを示唆している。これは、当初の予想とは異なっており、2つの遺伝子は別々に制御されている可能性が高いことがわかった。 シロイヌナズナ以外の植物で重力の大きさに応答する遺伝子を大規模発現解析で探索することを予定していたが、現状では適切な遠心過重力環境を作出できていない可能性があり、実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで遠心過重力環境を用いた実験は研究代表者の研究室で行っていたが、MAP65-1-GFP導入植物に関しては、胚軸での実験に実績のある分担者の研究室で行う予定である。また、プロモーター領域を切り詰めたMAP65-1-GFP植物の実験では、この遺伝子の発現が胚軸の伸長成長と密接に関わっていることが示唆された。この伸長成長に応じた遺伝子発現をもたらすプロモーター領域が、抗重力反応の遺伝子発現を制御する領域である可能性があるため、遠心過重力環境を用いる実験と並行して、伸長成長と関係した発現制御領域を先に特定することも検討している。 AGP4-GFPは茎頂で重力の大きさによって発現が変化することが分かったが、茎頂を顕微鏡で観察するには、つぼみや花の切除が必要であり容易ではない。また、切除の作業に時間がかかると本来のGFPシグナルを観察できない可能性もある。そこで、AGP4に関しては、GFP遺伝子を標的とした定量的RT-PCRにより、発現変化を調べる予定である。この実験はすでに実施しており、発現量を定量的に解析できることがわかっている。得られていないプロモーター領域を切り詰めたAGP4-GFP導入植物は、形質転換に用いる植物を増やすなどして早急に得る予定である。また、実験が全体的にやや遅れてているため、シスエレメントの同定には、データベースを利用する予定である。また、重力の大きさに応答する新たな遺伝子の探索は行わずに、MAP65-1とAGP4の解析に注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
プロモーター領域の特定に手間取り、プロモーターを細かく詰める作業に遅れが生じたため、一部の実験を平成27年度に行う必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子工学実験のうち、RT-PCRによるAGP4-GFPの発現定量実験など一部を平成27年度に行う。
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