研究課題/領域番号 |
25514002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
保田 隆子 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任研究員 (40450431)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミクログリア / アポトーシス / メダカ胚 / 未熟な脳 / 貪食 / 放射線 |
研究実績の概要 |
脳に傷害が起きると、免疫細胞“ミクログリア”が真っ先に反応して傷害部位へ駆けつけ、傷ついて不要となった神経細胞を取り込み、分解して除去することが知られている。 発達途上にある胚の脳でもミクログリア細胞が働いていることは知られていたが、ミクログリア細胞が不要になった神経細胞を取り込み、分解して除去するまでの一連の過程でどのように活躍しているのか、その詳細はこれまで明らかにされていなかった。 成人と比較して胎児期は放射線の感受性が高く、胎児期での放射線被ばくによって小頭症のリスクがあることも報告されている。本研究では、胚の脳が透明で可視化できるメダカ胚をモデルとして、放射線によって誘導された脳の傷害がミクログリア細胞によって除去される過程を詳しく調べた。放射線により傷害を受けた胚の神経細胞は、自ら小さい断片に分解して死ぬ「アポトーシス」という細胞死を起こす。我々は、胚のミクログリア細胞がアポトーシスを起こした神経細胞の断片を取り込み消化して除去する一連の過程を、3次元立体構築によりその分布を空間的に明らかにした。さらに、p53遺伝子の欠損により放射線により誘導されるアポトーシスが少ないメダカ胚を利用して、放射線による損傷の度合いに関わらず一斉にミクログリア細胞が活性化される可能性を示した。マウスの成熟した脳では、放射線による損傷の度合いに比例したミクログリア細胞の活性化が報告されており、本研究成果は、発展途上にある脳が損傷すると成熟した脳の損傷時とは異なるシステムが発動する可能性を示唆するものであった。 このように、発達期にある脳が放射線による損傷を受けた後のミクログリア細胞の働きを明らかにすることは、今後、発達期の脳を放射線の損傷から守る放射線防護剤の研究、さらに脳腫瘍などの治療で問題となる小児の医療被ばく影響を回避する研究などに役立つことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線によって脳に損傷が起きたときから、それらの損傷が除去されるまでにおけるミクログリア細胞の動態を経時的、空間的に観察することは既に達成できた。一方、ミクログリア細胞に特異的に発現する遺伝子上流に、GFPなどの蛍光マーカーを付加したコンストラクトを作成して、1-2細胞期のメダカ胚に作成したコンストラクトをインジェクションし、ミクログリアの挙動を生きた胚で観察できるトランスジェニックメダカを作成する計画はまだ達成できていない。
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今後の研究の推進方策 |
ミクログリア細胞に特異的に発現する遺伝子上流に、GFPなどの蛍光マーカーを付加したコンストラクトを作成して、1-2細胞期のメダカ胚にこのコンストラクトをインジェクションし、ミクログリア細胞の挙動を追跡できるトランスジェニックメダカの系統を作成する。このトランスジェニックメダカ系統が確立できれば、放射線によって損傷した神経細胞がミクログリア細胞に取り込まれ、それらが完全に消化されて除去される様子を生きた胚でライブイメージングすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミクログリア細胞に特異的に発現する遺伝子上流、GFPなどの蛍光マーカーを付加したコンストラクトを作成して、1-2細胞期のメダカ胚に作成したコンストラクトをインジェクションし、ミクログリアの挙動を生きた胚で観察できるトランスジェニックメダカを作成する実験に使用する予定である
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次年度使用額の使用計画 |
ミクログリア細胞に特異的に発現する遺伝子上流に、GFPなどの蛍光マーカーを付加したコンストラクトを作成する費用、および1-2細胞期のメダカ胚にこのコンストラクトをインジェクションし、ミクログリア細胞の挙動を追跡できるトランスジェニックメダカの系統を作成するのに必要なインジェクション装置一式の購入費用として使用する
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