研究実績の概要 |
申請者は科学研究費補助金(基盤C)の一連の研究において、胚が透明で脳を可視化できるメダカ胚を利用して、中脳視蓋においてミクログリアが放射線損傷によりアポトーシスを起こした神経細胞を取り込み、消化して除去する一連の貪食プロセスを電子顕微鏡による形態的解析から詳細に調べそれらの分布を3次元立体構築により空間的に明らかにした(Yasuda et al., Plos one, 2015)。この中で、p53遺伝子が欠損していて放射線による神経細胞のアポトーシスが極めて少ないメダカ胚でも、多くのアポトーシスが誘導される野生型メダカ胚とほぼ同数のミクログリアが脳全体で一斉に活性化されることを見出した。この結果は、発達途上にある脳が放射線に被ばくした際、その損傷の程度に関わらず脳中のミクログリアが活性化する機構の存在を強く示唆するものであった。さらに、貪食が終了した後もしばらくミクログリアの活性化が継続することも示された。 メダカ胚は、卵殻と体躯が透明であるので脳内を容易に観察できるうえ、メダカ胚の脳のサイズは哺乳類と比較して大変小さく脳全体を俯瞰的に観察することが可能なモデル生物である。これらの利点を活かして神経組織の損傷を除去するミクログリアの一連の応答反応を3次元空間的に明らかにすることに成功した。本研究において、放射線による免疫応答反応を脳全体で明らかにすることは、発達期の脳を放射線の損傷から守る放射線防護剤の開発、さらに脳腫瘍などの放射線治療における小児の医療被ばく影響を回避する研究などに役立つことが期待される。
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