研究課題
地球上の生物は生体組織の恒常性を維持する。骨もその代表の一つであるが、人が宇宙へ行くと重力がキャンセルされて骨量が減少する。骨量減少の原因解明は、老人性骨粗鬆症の予防や長期の有人宇宙探査における重要な課題である。その解明には、培養細胞のみならず生物個体での観察・解析が必要である。メダカのノドに存在する咽頭歯は300本以上の歯が生え、1週間で新しい歯に生え変わる骨代謝が盛んな組織で、無重力下における骨組織の応答が調べられると考えた。私達は独自に遺伝子改変することで骨の細胞が光るメダカを作製し、国際宇宙ステーションに打上げ、無重力による骨への影響を2つの方法で解析した。1つ目は2012年に実施された宇宙長期滞在飼育実験である。2ヵ月間の無重力環境の影響を調べるために、光る骨の細胞の蛍光解析と組織学的解析を行った結果、骨を溶かす破骨細胞が活性し、咽頭歯骨の骨量減少が明らかになった。また、破骨細胞のミトコンドリアの形態が異常となり、ミトコンドリアに関連する2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇を明らかにした。2つ目は2014年に実施された宇宙短期滞在実験である。無重力環境へ移動してからの細胞の初期応答を解析したもので、メダカの稚魚を生きたまま特殊なジェルに包埋し、8日間に渡って蛍光で光る細胞の追跡を行った。その結果、骨芽細胞は打上げ後1日目から顕著な蛍光シグナルの増加が見られ、破骨細胞は4日目と6日目で著しい増加が見られた。また次世代シーケンス解析により遺伝子発現レベルを調べた結果、骨関連以外の新規遺伝子5つの発現上昇を明らかにした。興味深いのはグルココルチコイドというストレス性ホルモンの作用で発現する遺伝子が多く含まれており、今後は宇宙とグルココルチコイドの関連性を調べることで研究を発展させる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
骨粗鬆症治療
巻: 16 ページ: 56-62
no.1
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 1-14
doi:10.1038/srep39545