研究実績の概要 |
宇宙での長期滞在で被ばくする宇宙飛行士の宇宙放射線よって発現される生物影響の発現のしくみを明らかにすることを目指した。今回マウス個体に重粒子である炭素線を照射して、骨髄の幹細胞および前駆細胞の生存率を精査した。 ICRマウス(雄、5週齢)に炭素線(290MeV/u, 13.3keV/μm)を0.01~5.0Gyを単回全身照射した。マウスをペントバルビタールで麻酔し、アクリルボードにテープで固定し、さらに全てのマウス体幹の厚みが一定となるようにアクリルカバーを装着した。非照射および0.01~0.5 Gyを照射したマウスからは2~3 x E7個の有核細胞が、1 Gy 以上を照射したマウスからも1/2~1/3量の有核細胞が調製された。また MethoCult 培地を用いたコロニー形成法による生存率の解析では、0.01~0.5 Gy を照射したマウスの骨髄幹細胞および前駆細胞の生存率は非照射マウスと変わらない値を示し、生存率はほぼ1.0であった。1 Gy以上を照射したマウスの骨髄幹細胞および前駆細胞の生存率は、徐々に減少し、5 Gyを照射したマウスで約0.8であった。骨髄細胞においては照射1日後では重粒子線による0.5 Gy以下の照射により低線量超感受性が認められ、また高線量照射においては大きな肩を有する生存率曲線を示した。しかし、照射14日後では、5 Gyを照射したマウスにおいても骨髄幹細胞および前駆細胞の生存率は0.8まで回復していることが示された。これらの結果から、重粒子線の低線量被ばくした正常骨髄幹細胞は一時的に死滅するが、徐々に回復していくことが示唆された。また生存率曲線の形状から、骨髄幹細胞においては相同組換え修復が優先的に機能していることが示唆された。 これらのことから、重粒子線の低線量被ばくした寛骨(腸骨)骨髄幹細胞の応答(反応)解析の重要性が示唆された。
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