研究課題/領域番号 |
25516003
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山田 浩久 山形大学, 人文学部, 教授 (00271461)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地価 / 地代 / 土地利用 / 土地生産性 / 県内総生産 / 雇用者報酬 / 地域間格差 |
研究実績の概要 |
地価は土地の評価値であり,地域構造の変容をシームレスに表す数的指標として有効であるが,経済のファンダメンタルズによる影響も受けるため,必ずしも地域構造の変容によってのみ変動するわけではない。多様な地価変動因子は,それぞれに影響しあう空間的範囲が異なり,階層的な構造を有していると考えられる。本研究では,各階層の地価変動因子を段階的に抽出することによって,東日本大震災が地域に与えた影響を計量的に把握することを目的とする。地価変動因子の抽出は,全国レベル,都道府県レベル,市街地レベルで行い,それぞれを関連づけながら,その階層的な構造を明らかにする。 この最終目的を見据え,平成26年度の研究では,山形県内の市町村を対象にして近年における構造的な変容を市街地レベルで整理した。次いで,地価と地価形成の基盤となる土地生産性との関係を都道府県別に見ることによって,近年における傾向とその地域的な特徴を明らかにした。考察は,『県民経済計算』に記載されている都道府県ごとの雇用者報酬,第二次産業生産額,第三次産業生産額を各都道府県の民有宅地面積で割ったものを,労働力,工業,商業の土地生産性指標として採用し,それらを説明変数,地価を目的変数とする回帰分析によって行った。その結果,地価の都道府県間格差に対する分析結果と都道府県ごとの地価変動に対する分析結果がそれぞれに異なっており,地価形成のメカニズムと地価変動のメカニズムは,分離して考える必要があることが分かった。また,いずれのメカニズムも,三大都市圏や地方圏の枠組みの中で,都道府県レベルでの地域性を有しており,市街地レベルで考慮しなければならない個々の土地評価も都道府県レベルで異なる土地評価の地域性を基礎とすべきであることを指摘するに至った
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時における研究計画では,全国レベルでの地価変動に対する分析は平成25年度に行う予定であったが,同年度の検討から,大都市圏と地方圏との乖離を明らかにする分析を優先した。そのため,平成26年度においては,都道府県ごとの地価現象に対するファンダメンタルズ・モデルの導出に力点を置いた。その結果,分析の順番は前後したが,全国レベルから地方ブロック,そして都道府県レベルまでの段階的考察は可能になったと考えている。その意味で,平成26年度の研究テーマであった「地価の短期的・地域的変動部分の抽出」に関する考察は完了し,研究の進捗に大きな乱れは生じていないと言える。しかしながら,,震災の影響は,ファンダメンタルズ・モデルの説明変数に採用した経済指標に反映され,例えば「震災ダミー」というような独立した変数として捉えることはできなかった。研究計画時に設定した不動産鑑定士に対するアンケート調査は,2010年に行った同様の調査との比較を予定していたが,事前の個別業者への聞き取りによって,現実に大規模災害が生じたことで鑑定結果は大きく変化したが,鑑定方法自体に大きな変化はないことが分かったため,実施しないことにした。研究結果の公表に関しては,平成25年度に行った研究を補足し英文書籍として刊行した。また,平成26年度の分析結果は,日本地理学会及び東北地理学会において発表し,その一部を書籍として刊行した。 以上,研究の進捗に大きな乱れは生じていないものの,東日本大震災の被災域における特殊な地価変動因子を数的に抽出することができていないことから,研究全体の達成度は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
地価変動因子に階層性があることやそれらを段階的に抽出する必要があるという思考に問題はないと考えるが,平成26年度に行った都道府県間の研究では,震災による特異な変数を捉えられなかった。この点を踏まえ,本研究の最終年度となる平成27年度においては,残された時間の枠内で,以下の点を明らかにしながら研究の総括に進んでいきたい。 地価の局地的な現象に現れる大規模災害の影響を市街地レベルの地価現象に対するヘドニック・アプローチから試みる。ただし,これまでの分析から,被災域に特有な因子を数的に捉えることには困難が予想される。数的な把握ができなかった場合には,現行の地価が引き起こしている地域的な課題を考察することによって土地に対するイメージや風評といった数値には現れにくい要因による地域構造の変化を明らかにしたい。これは,研究題目にある「地域構造変容の計量的考察」の直接的な帰結とはならないが,計量的考察からは明らかにできない要因から被災地や非被災地の地域構造変容を論じることは,地域で生じている事実を明らかにするために必要な作業である。また,地価に対する認識や今後の地価研究においても意義のあることと考える。 平成27年度内に行う総括については,これらの点を考慮し,計量的な考察結果と非計量的な考察結果の両面から東日本大震災後の地域構造変容をまとめる。既に解明された点や明らかにしなければならない点は視点やスケールによって異なるため,研究結果はいくつかに分割して公表する予定である。最終的には1冊の書籍として刊行するつもりであるが,同年度内においては分割した研究結果の公表にとどまると思われる。
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