当該研究の目的は、個人のワーク・キャリアに関する認知が、きわめて予測困難でありながら非常に影響力の 強い自然災害によって、どのような過程を経て再体制化していくのかを、東日本大 震災という具体的事象をめ ぐる比較事例的視点から明らかにすることである。理論的には、ワー ク・キャリアにおける環境変化を主とし て扱うトランジション研究における鍵概念の批判的再検 討を目的としている。経験的分析としては、歴史上稀 有な自然災害である東日本大震災に主眼を 置くことで、研究の独自性を追求するものである。 当該年度の研究遂行の概要は以下の2点にまとめられる。第1に、キャリア・トランジションおよびセンス・メイキングの理論的枠組みを、 各フィールドの 分析に適用する。そこで、各領域の文献研究を進め、前述した分析枠組みを、よ り精緻化することを目指すことである。前年での本研究に密接に関連する学会発表の際、フロアから建設的なコメントがあり、枠組みの再検討と深化の必要性が生じたため、あらためて文献研究を進めた。第2に、震災による福島県外への避難者について、聞き取り調査と資料収集をおこなった。まず、福島県庁避難者支援課の担当者に聞き取りをおこない、県外避難者についての現況把握をおこなった。さらに、関西のいくつかの県の公共図書館で、現地詩誌による震災避難者の取り上げられ方がどのように変化しているかの資料収集と整理をおこなった。これらの作業は次年度主として関西を中心に避難者のキャリアについて調査をしていくための下準備として位置づけられる。
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