最終年度である平成27年度においては、これまでの研究成果をまとめるとともに、新規の分析も追加し、共同研究としての成果も含めて、国内では、日本金融学会2015年度春季大会、危機管理システム研究学会の第2回震災とリスク管理研究分科会 (TDR48) 研究会、日本ファイナンス学会第23回大会、日本ディスクロージャー研究学会第11回研究大会、海外ではThe International Finance and Banking Society (IFABS) 7th International Conferenceにて発表を行った。 その中で、単に企業の情報開示による株式市場の反応を検証するだけでなく、その情報内容により分類し、さらに震災発生後の時間の経過による影響も考慮した市場の反応を計測した。すなわち、開示内容を、被害あり、被害なし、調査中およびその全体に分類し、期間は、震災翌週、震災翌々週、3月最終週およびその全体とした。震災に関してこのように要因と期間を同時に分類して、株式市場の反応を統計的に検証した例は重要な問題でありながら、実データによる研究例は非常に少なく、貴重な分析である。 その結果、開示内容として「被害あり」であっても、震災直後に開示した場合はネガティブな反応が大きいが、震災翌々週に開示した場合は有意な反応がないことがわかっり、開示の迅速性が重要であることが確認された。また、「被害なし」に分類される開示はほぼ3月中に開示されており、株式市場では有意にプラスの反応が観測された。「被害なし」という情報の開示は、過去に会社が発表していた情報の変更がその時点ではないことを示しており、大災害という広範囲に被害が広がっている状況で、会社に制度上の開示義務のない情報の開示が、市場に影響を与えることが検証され、適時開示等のディスクロージャー制度にとって、重要な検証結果となった。
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