研究課題/領域番号 |
25516013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
矢永 由里子 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (70523447)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 被災者 / 支援者支援 / エンパワメント / コミュニティ / 支援者養成 / 研修 / 心理社会的課題 |
研究概要 |
本研究は、災害後に地域住民が自らの支援活動をレベルアップし、地元での持続的・長期的な支援体制が構築できるようそのモデル化を目指すものである。 【現地の関係者の聞き取り調査】毎月複数回の訪問によって、大槌町と釜石市を中心に住民支援に当たる保健師や民間団体とのネットワークを構築した。これまでの信頼関係を強化し、刻々と変化する地元住民やそれを取り巻く環境への支援について現在の取り組みや支援者として直面する課題について聞き取り調査や意見交換を重ねた。その結果、再建に向けて動き始めた住民の陰で取り残されつつある特に高齢者の不安感や孤立、認知や身体機能の衰え、依存症の増幅などは、沿岸部共通して見受けられる状況であることが判明した。また、支援者自身のメンタルの課題も明らかになってきている。特に住民の自死や支援者自身の震災体験が外傷体験となる例もあった。支援者層が限られているのも現地の特徴であり、少数保健師の役割は広範囲に及びその活動は拡散傾向にある。このような土地では、専門職単独の住民支援は不十分で、現地の民間団体等との連携が必須であることも判明した。 【東北3県の支援者との意見交換と協力体制整備】宮城県と福島県にて被災住民のメンタル支援機関の責任者や実働メンバーと、現地での住民の状況や支援の方法について情報交換を行った。また、岩手県内の大学関係者とも検討会を持ち、地元支援者に対する長期的育成の協力体制を整備することができた。 【海外の研究者や活動団体との意見交換】外傷後ストレス障害専門のDr. Van Dyke Craigらや、米国911の遺族会の遺族との交流や意見交換を持つことが出来た。FMU-IAEA International Academic Conferenceにて国際放射線防護委員会委員長、Dr. Jacques Lochardとは現地の状況に沿った研究のあり方について意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【現地の住民・支援者への聞き取り調査】初年度の目的である現地の状況理解と支援者ニーズ把握については、半構造化面接形式が難しかったものの個別の聞き取り調査を重ねていくことができた。聞き取り調査と住民支援の現地フィールド活動から、1)住民ニーズとしては、刻々と住民を取り巻く住居環境や支援人材の変化のなかで、中・長期に渡る継続的な支援、特に孤立感を緩和する定期的な訪問と自分たちの声を伝える場の提供が非常に大きなものであった、また再建から取り残される社会的弱者の人達の長期的ケア体制の整備、高齢化に伴う認知障害の対応、2)支援者ニーズとしては、支援者自身が被災者であり喪失体験を持つことから来るメンタルヘルスの課題とその対応、長期支援での精神的な疲弊、支援者間での組織内役割葛藤とその解決が挙げられた。 【研修の形】聞き取り調査から、現地の住民かつ支援者である人々を対象とした研修については、ある程度具体的な内容の組み立てが可能になっている。まず素案を作成し、それを支援に入っている団体の中心メンバーに検討を依頼し、共にプログラムを作成していく方向で準備をしている。研修は、現地で直接住民と触れ合う支援者向けのプログラムの内容をまず作成し、沿岸部数か所で実施予定である。また、支援者を支援するリーダーには、支援者支援のあり方や支援者の育成、組織内の役割葛藤への介入をテーマとしたプログラムの検討を行う予定である。支援者の研修と、支援者のリーダー研修の二段構えの研修形態を計画している。 【研究意義の確認】災害支援については、直後の介入方法は万国共通なものとして確立されつつあるが、東日本大震災の特徴を踏まえた中・長期に渡る被災者の問題やニーズ、そして支援者の課題の明確化はまだ進んでいない。本研究での聞き取り調査によって得られた結果は、この明確化に寄与するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回、元々人的資源が限られていた沿岸部での震災であったため、専門職の確保が住民ニーズに追いついていない現状であり、現地のボランティアなどの支援者の役割が重要である点が明白になった。本研究の目指す支援者のエンパワメントは現地の復興の中で人材強化の意義を持つことが確認できた。引き続き、支援体制の強化について、地元住民の支援者と専門職の連携も視野に入れて支援者支援を検討する。 【次年度に向けて】1)研修の実施と評価:沿岸部で研修を実施し、研修前後の判定を行い、研修の効果を評価する。その評価を元にプログラムの改善を目指す。2)海外研究との比較:①現場視察:米国においても社会資源が限られている環境では、準専門性を持つ住民の自発性を尊重しつつ支援者としてコミュニティのニーズに応えるmobile mental health careの実践が試みられている。米国での支援者育成の現場を視察し、現場の取り組みと本研究の比較検討を行う。②海外研究者との意見交換:米国にてmobile care チームの指導にあたり、また東日本大震災時にも被災地入りしたカリフォルニア大学、Dr. Reiko Honmaや外傷後ストレス障害(PTSD)専門のDr. Van Dyke Craig等との支援者支援についての意見交換を重ねる。3)支援者エンパワメントのツールとして、住民のメンタルヘルスの評価の具体的方法の提示:住民メンタルヘルスの評価方法の確立を目指す研究を協力することで、評価方法の樹立に貢献し、その方法を現地の支援者に住民支援のツールの一つとして紹介する予定である。まず評価方法を検証する作業を実施し、翌年度にその結果を踏まえてツールの紹介を行う。 【研究のまとめの推進方策として】日本での災害支援の知見を、幅広く日本国外へも発信するため英文論文を作成し、国際学会・国内学会で研究結果を発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
被災地では有料の会議室が皆無で、聞き取り調査を実施する際は、行政(役場や保健福祉センター)の無料の場所を借りることになり、会議室賃貸料が実質皆無であった。 また、聞き取り調査時の謝金も計画していたが、本人たちからの申し出により謝金の必要性が無くなり、謝金分の予算は未使用となった。 沿岸部での研修を複数開催するため、そのための旅費や、海外研究との比較対象のための旅費に上記の差額を有効に活用する予定である。
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