研究課題/領域番号 |
25516017
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
西野 淑美 東洋大学, 社会学部, 准教授 (30386304)
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研究分担者 |
石倉 義博 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60334265)
秋田 典子 千葉大学, 園芸学研究科, 准教授 (20447345)
平井 太郎 弘前大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70573559)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 岩手県 / 釜石市 / 住宅再建 / 居住地選択 / 区画整理 / 町内会 / 縦断調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、東日本大震災で甚大な被害を受け、地区の一部で復興土地区画整理事業が実施されている釜石市A町内会の会員世帯に、毎年調査を繰り返し、生活再建への道のりを追跡している。2014年度は、震災時会員全195世帯のうち45世帯への聞き取りを行った。 2014年度調査時点では震災から3年半が経過しており、区画整理事業では仮換地決定が行われ、それに先立ち、一部の世帯は市への土地売却について意思決定をしていた。売却意思は、住宅再建資金の見通し、親世代と子世代の同居意思、浸水地域での再建への躊躇などに左右されていた。並行して事業地区外の土地に住宅を再建する世帯も現れている。復興公営住宅の入居募集も動きが進み、各世帯の恒久住宅の方向性は、昨年度と比較すれば定まりつつある。 大枠では、釜石市内に子世代がいる場合は土地を売却せず、いない場合は売却して公営住宅入居を希望する傾向が読み取れる。しかし、土地を売却しなかった世帯も、仮換地先に住宅が建設可能になるのは数年先であり、再建をめぐり資金の問題や世帯内の意見が分かれる問題を抱えていることもある。公営住宅も入居可能になるまで年単位の時間がかかる。そのため多くの住民が仮設住宅に住み続け、先の見通しへの不安を語るという点では昨年度から変わりがない。 事業地区外の土地や仮換地先での自力再建を選択するのは、現役の働き手がいる世帯や親子での共同再建が可能な世帯がほとんどである。住宅再建に関わる諸選択は、現時点での収入とともに、長期的には、子世代が再建した住宅を継承する気があるか否かに影響されることがわかってきた。同じ町内で被災した住民間でも、住宅再建をめぐる選択が分かれていく現実と、選択の背後の要因について知見が得られていることは、同一地区の世帯を縦断的に追う本調査ならではの成果である。震災からの時期による変化を比較できている点でも希少な調査といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質的な縦断調査は順調に進んでいる。2014年度は、釜石市鵜住居町A町内会会員195世帯のうち45世帯に対し、8月中旬に訪問してアポイントをとった上で、9月に各世帯約1-2時間の聞き取り調査を実施した。いずれも2013年度にも調査をした世帯であり、うち21世帯は2012年度にも聞き取りを行っている。半構造化インタビューにより、現住地での生活における気がかりや希望、家族や仕事の状況、住宅再建の見込みと居住予定地、鵜住居町または釜石市にとっての最大の課題、現時点で最も強く思うことなどを聞き取った。また、聞き取った内容を抜粋した報告書の案を作成し、3月末に各世帯を訪問し、調査対象者本人による内容確認を依頼した。2014年度報告書は2015年度に印刷し、配布する。 各年度に3回ずつ直接訪問して調査を繰り返していることは信頼関係の構築につながっており、聞き取りの内容は年ごとに詳細かつ内面を含んだものになってきている。そのことにより、生活再建への道のりの分岐とその背後要因について、より詳しい情報提供を受けることができ、研究目的の達成につながっている。 なお、対面での聞き取りを依頼していない世帯への質問紙調査も検討してきたが、現地では多くの質問紙調査が実施されており、「調査疲れ」「調査公害」への配慮が必要であったとともに、その状況下で高い回収率を実現するためには丁寧な調査方法をとる必要があり、そのためには町内会に多くの協力を仰ぐ必要があったが、負担をかけられない時期であると判断したため、実施を控えた。その分、聞き取り調査の内容を充実させた。 調査成果の公表も順調に進んだ。2013年度調査の報告書を2014年8月に発行し、調査対象世帯および関係者に届けた。また、図書・雑誌への論文掲載や、学会の研究会での報告も行った。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、まず8月前半に、2014年度までの調査対象世帯を訪問し、前年度調査の報告書を手渡すとともに、8月後半から9月にかけての聞き取り調査のアポイントをとる。そして、8月後半から9月にかけて、前年度からの生活の変化や、その時点での住宅再建や居住予定地の見込み、課題・思いなどについて、1世帯につき1-2時間の聞き取り調査を行う。また2016年3月をめどに、2015年度調査の報告書案を作成し、調査対象者本人に内容確認を依頼する。また、2012年度から4年間の再建の道のりと心情の変化を分析し、報告書に掲載する。 また、A町内会の震災時会員のうち聞き取り調査を行っていない世帯に対して、何らかの情報を集める簡易調査を実施したいと考える。前述のように丁寧な調査方法を要するため、現地の状況を慎重に見極めつつ検討する。 なお、多くの世帯の住宅再建は道半ばであり、2016年度以降も調査を続けることが必要であり、そのための体制を探ることも今年度の課題と言える。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰り越される金額は650円と少額である。研究分担者の手元に端数として残った額であり、無理をして使い切る必要が無いと判断したため、次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
当該研究分担者が次年度の旅費等の支出時に合わせて使用する。
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備考 |
「『新川原町内会の皆様への聞き取り調査』第2回調査(2013年夏実施)報告書」を2014年8月に発行。
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