研究課題/領域番号 |
25517001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中井 裕 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80155655)
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研究分担者 |
南條 正巳 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60218071)
齋藤 雅典 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40355079)
西尾 剛 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30301039)
金山 喜則 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10233868)
大村 道明 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70312626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 土壌 / 放射性セシウム / 資源循環エネルギー / バイオディーゼル燃料 |
研究実績の概要 |
平成24年度中に土壌サンプリング・ナタネ播種を実施した、南相馬市の圃場、ならびに仙台市の圃場において、25年度はナタネの成長ステージに応じて、①土壌中の垂直方向(深さ方向)での放射性セシウムの分布について、土壌肥料学・作物学の観点から検討を行った(南條・齋藤)。②ナタネ植物体中の放射性セシウム動態の検討を行った(金山・西尾・北柴)。③平成23年度・平成24年度作のナタネ栽培に関するデータを用い、エネルギー作物としてのエネルギー・経済合理性を検証中である。(大村・齋藤)。④農家が採用するための条件抽出、エネルギー販売等に関する可能性の検証(中井・大村)。農家が菜の花を積極採用するための条件について、補助金が受給できるナタネの収穫から搾油というスキームの他、生花・生食用の栽培も考えられる。エネルギーとしての出口では、地方税との関係もあり、関係各機関でのアウトリーチ活動で情報収集を行う。⑤転作体系確立のための条件抽出(北柴・西尾・中井・大村)。水田の転作にあたっては、転作期間終了後、速やかに水稲栽培に移行できる体系が必要となる。また、補助金の有無によらず、収穫回数は収入の回数でもあることから、3年3作・4年4作のように、最低限年1回以上相応の収穫が得られる体系を構築しなければならない。25年度中は、農家等にヒアリング行うとともに、ジーンバンクが保有する既存のアブラナ科作物系統の中から好適な品種の候補を選定する作業を実施した。⑥生花・加工花(プリザーブドフラワー)の保存条件に関する検討(大村)。とくに加工花の製造に関する技術を企業等と共同で開発し、試験販売に至った。 26年度は、福島県内のホット環境での菜の花栽培に着手したが当該試験地で除染事業が実施されることになり、地権者に迷惑をかけられないとしてホット試験を中断した。試験中断までは、おおむね計画通りの進捗となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
福島第1原発近辺での菜の花の栽培と加工における放射性Csの動態を調査し、データを解析した。イネ以外の作物の原発汚染地域での栽培実験は少ないことなどから、本研究では、食用、加工用として利用可能であり、重要な野菜を多く含むアブラナ科に属し、またファイトレメディエーションの可能性も示唆されている菜の花を、粗放的に栽培する実証研究を行った。具体的には、汚染レベルの異なる3地域の畑で、土壌深度別の汚染度を調べるとともに、菜の花の部位別、発育段階別、抽出油における放射性Csを測定した結果を解析したところ、作物の器官別および発育段階別の放射性Csレベルや、作土の放射性Csとの相関、さらにオイルへの移行がないことなどについて知見が得られた。 エネルギーにおける合理性の観点では、再生可能エネルギーの全量買取制度の関連で、バイオマス発電に注目が集まる中、各地で(エネルギープラントとしての)実規模の検討が行われた。その結果を見ると(企業秘密扱いにて引用できないが)、石炭や、もしくは海外からの輸入バイオマスが経済合理性のために必須とされている。この点は、当初の設定(菜の花単独、または他のリソースとの組み合わせよるエネルギー合理性の検討)にも関わる社会環境の変化であり、引き続きの検討と、そのための枠組みの再検討が必要と判断された。
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今後の研究の推進方策 |
①菜の花としての収穫、さらにはナタネを収穫し、搾油を実施したナタネ植物体・あるいは残差物・ナタネ油への放射性セシウム等の移行・動態、品種の適性等について、これまで収集したデータをもとに検証する(金山・西尾・北柴)。②土壌中のセシウムの動態については、既存のデータや福島県内で実施される活動の成果を分析して検討する(南條・齋藤)。③ナタネ栽培残差の処理方法について検討する(中井)。もし放射性セシウムを多く含む場合、それをさらに濃縮し、減容化するための処理方法を検討しなければならない。焼却等の他、バイオガスプラントへの投入と、発酵プロセス内でのセシウム吸着等が考えられる。④引き続きLCA等、経済合理性検討結果を含む、研究成果の発表(齋藤・大村ほか全員)。また同時に、福島県内での菜の花関連事業の状況の調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題は放射能汚染農地を実験場所として必要とするが、現地においては国あるいは県による除染工事が行われ、またそれに係る現地の農地事情も複雑であった。そのため、H25年度の栽培開始のための現場圃場(ホット環境)の確保が難しく、最終的には0.2ha程度の小面積圃場を確保できたのみであった。結果的にH25年度試験栽培については、当該敷地に除染事業の実施が決定し、地権者や除染関係者に迷惑をかけないため、試験栽培の中断を余儀なくされた。したがって、菜種の搾油や、それに伴う残さなどの試験を行うための資金についての執行が停止した。代替地の模索や、付近の菜の花栽培地での試験継続も検討したが、最終的には断念せざるを得なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記①~②については当初計画の完遂のため、各担当者の役割を進める。しかし、現地ホット環境での試験については期間内の実施について目処が立たないことや、現地の菜の花に関する取り組みがすでに商業ベースに乗っている部分もあり、データの共有が難しい側面もあることから、セシウム動態についてはこれまで得られたデータの検討によるものとする。一方で、これから来る津波災害や原子力災害からの復興に対しての知見を得るためには、現地における状況を調査し、記録すると同時に、現地で活動する研究者とのリレーションシップを構築する必要もあることから、今年度はこの点について調査を進めることにする。さらに、これまでの菜の花栽培で問題となってきた害虫(カメムシ・アブラムシ)について、専門家の意見を聴取することとする。
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