航空会社と空港の間の関係は、対立関係と協調関係が共存する複雑で多面的な構造であり、交通経済学、契約理論、ゲーム理論等の観点から興味深い。LCCの進展や空港の民営化等により個々の主体間での収入リスクの緻密な管理がより重要になっており、実際に、リスク分配メカニズムの契約例(搭乗率保証契約)も複数現れている。羽田空港の発着枠配分においても、国は、航空会社に自治体とのリスクシェア契約に基づく路線運営の提案を配分決定の参考にしている。 本研究は、単純ケース(情報の非対称性がない状況下、1社の航空会社と1つの空港が、1回の交渉を行い、混雑や空港支配力等のないケース)を一部拡張し、情報の非対称性の加味に加え、より現実の状況に近い、ダブル・モラル・ハザード(両者とも相手の行動が見えない構造)の構造下でも、線形のリスク分配契約が最適な契約となり得ること、また、そのために必要な条件を確率解析等の手法により具体的に明らかにした(Hihara(2014))。情報の非対称構造を、リスク分配契約に導入できたことは、リスク分配契約を、契約理論の枠組みにおいて分析する点で、一定程度進めることになったと自負する。 また、Hihara(2014)においては、単純なリスク分配契約の内容として、多期間の内容を含むモデルを構築し、多期間のリスク分配契約への拡張について、確率的な動的計画法の手法(Schaettler and Sung (1993)他)を応用するモデルを構築できた点は、同一の論文ではあるが、理論的にも、情報の非対称性とは別の意味で、一定の成果と考える。 最終年度の2015年度においては、従前の研究で得られた知見を踏まえ、当事者間のバーゲニングによっては、社会的に最適な厚生水準が達成し難いとの理論的な分析を得て、それを地球温暖化問題に関する国等当事者間のバーゲニングの文脈で説明する学術書の1章を分担執筆した。
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