研究課題/領域番号 |
25518012
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
坂本 隆幸 北九州市立大学, 法学部, 教授 (10298557)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経済成長 / 生産性 / 政府の人的資本投資政策 / OECD諸国の政治経済 / 教育政策 / 労働市場政策 / 家族支援政策 / 再分配政策 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、政府による労働市場政策や教育・家族支援政策が、いかに生産性の成長を促進するかを、国際比較分析によって実証的に明らかにすることである。人的資本投資の視点から理論的モデルを提示し、1970年から現在までのOECD20カ国のデータを実証分析する。政府はいかなる政策のミックスを取るのが望ましいか、それによりいかに持続的な経済成長と豊かな社会の創出に寄与できるかを実証データで示す。
本年度はまず、前年度にアップデートを施した新しいデータセットを使い統計分析をし、何重ものロバストネス・テストを行い、その結果を論文にまとめた。同論文は、カリフォルニア大学バークレー校で開催されたThe Society for the Advancement of Socio-Economicsの年次総会で発表された。新しいデータによる分析の結果は、一昨年度の分析結果と基本的に同じもので 、それまでの研究結果を補強し、結果に対する信用を増やすことができた。教育と家族支援政策支出は生産性成長にプラスに働く。
また、先進国の政府による人的資本投資と生産性の成長との関係のパターンの類型を抽出した論文に再分析、加筆修正をかけたものがInternational Political Science Reviewでの掲載が決まった。同分析によると、先進国は4つのグループに分けられる: ①政府による人的資本投資が高く、全要素生産性が高い北欧諸国、②政府による人的資本投資は低いが、高い物的資本投資が高い労働生産性につながるアングロ・サクソン諸国、③中程度の人的資本投資がある程度高い全要素生産性につながるが、低い物的資本投資により労働生産性が低くなる大陸欧州諸国、④人的資本投資が低く生産性も低い南欧諸国だ。 さらに本年度後半は、さらなるデータの更新と精度の向上に努め、データセットのアップデートが現在でも続いている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、政策が生産性の成長に与える影響を明確にすることができたので順調に進行していると言える。しかし、まだこれから行わなければいけない分析がたくさんあるので、今後はさらにスピードを上げていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後明らかにしなければならない課題の一部を記す。家族支援政策が生産性にプラスの影響を与えるという結果が出ているが、家族支援政策のどの政策がプラスの効果を示すのか。子ども手当か、チャイルドケアか。育児休暇手当か。それともそれらの組み合わせか。教育支出のどの部分がプラスの効果があるのか。大学支出か、義務教育か。就学前教育か。ジェイムズ・ヘックマンらが、教育投資で一番効果が高いのは就学前教育と論じているが、本データセットでも同じ結果になるのか。一方で大学支出の生産性に対する効果が大きいという結果も他の研究者らによって示されているが、本データセットでも確認できるのか。
なぜ労働市場政策にはプラスの効果が見られないか。これは同政策がもっぱら失業者や高リスク労働者を対象としていて、高技能労働者の人的資本への効果が期待できないため生産性への影響がないのか。これらの課題をスピード感を持って検証していかなければならない。
また、今後もデータ分析にさらなる改善を加え、分析結果の確度を上げていかなければならない。また、新たな査読などから随時コメントが届くので、それを利用して分析の質を上げていく。論文の執筆と投稿、学会発表を継続して、専門家からのフィードバックの確保を図る。時間との戦いになるが、人的資本投資政策は雇用の質や量や、所得分配に影響を与えるのかどうか、与えるとしたらいかなる影響か、も分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究結果を数本の論文として発表した際、政治学者の間で生産性という概念があまりにも知られていなかったため、その重要性や分析結果を理解してもらうために大幅な追加説明、加筆修正が必要になり、それに時間が取られ、計画に遅れが生じた。また、データ収集、データセットの構築や、統計分析にも予想より多くの時間がかかった 。また、研究補助者は限られた時間の中で良い仕事をしてくれたが、本人の博士論文の研究、執筆と時期が重なっていたためより多くの時間をデータ収集、文献調査に使うことができず、その分報酬が未使用になっている。
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次年度使用額の使用計画 |
データセットのアップデート・再構築、統計分析をスピーディに進め、 遅れを取り戻す。研究補助者にも時間の制約の中でできるだけ多くの時間を使ってもらい、研究を進める。また、2017年9月にノルウェーのオスロで開かれるThe European Consortium for Political Researchの総会での研究論文発表が決まっているため、それに参加し、その後北欧2カ国ほどで現地調査を行う。このために旅費が使用される。さらに、新たな共同研究者(在ワシントンD.C.)との研究を始めることができたため、研究のスピードが上がることが予想され、研究費使用もスムーズに進むようになることが予想される 。
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