研究課題/領域番号 |
25518013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
西尾 隆 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (60189256)
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研究分担者 |
稲 正樹 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (00113655)
大森 佐和 国際基督教大学, 教養学部, 准教授 (20419253)
寺田 麻佑 国際基督教大学, 教養学部, 准教授 (00634049)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グローバル化 / 政策システム / 公務員制度 / 刑務所 / 航空管制 / 日英比較 |
研究概要 |
初年度にあたる2013年度は、主に研究全体の構想を固め、11~12月の英国調査(西尾と寺田が担当)を通して情報収集と研究者間の関係構築に努めた。また、これまでの日本の公務員制度改革を回顧して世論の動向との関係を論文にまとめた。 英国調査は、(1)刑務所、(2)航空管制、(3)政府の幹部人事を対象とし、(4)エクセター大で意見交換を行った。このうち、(1)刑務所に関しては、International Centre for Prison Studies (ICPS)所長のP. Bennett氏、Prison Governors Association(PGA)のP. Scriven氏、Coldingley刑務所長のE. McLennan-Murray氏にインタビューを行い、同刑務所を視察した。 政府直営か民営かという制度選択は職員の育成の責任ともリンクし、日本の刑務官育成システムや公設民営施設のあり方を考える上で参考となった。また、矯正現場で見た受刑者と刑務官とのフランクな関係は日本とは大きく異なり、実態報告が少ないだけに新たな比較の論点とすべきことを痛感した。 (2)航空管制に関しては、公企業体Civil Aviation AuthorityのM. Goodliffe氏と民間企業National Air Traffic Service(NATS)のG. Skelton氏にインタビューを行った。航空管制業務を時間をかけて民営化した結果、ヒースロー空港の運用などで効果の大きさを確認できた。労働基本権や給与決定方式は、日本と労使関係が異なることから単純な比較はできないが、グローバル化に伴う管制業務の共通化の中で改革の方向への示唆があった。 (3)幹部人事に関しては、内閣府executive Talent Team次長のR. Fisher氏と面談し、人事評価の制度と実際、政治家の関与、異動の頻度などについて貴重な知見を得ることができた。 (4)エクセター大ではOliver James教授ほか数名の研究者とセミナーをもち、研究方法から行政システムの違いについて意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活字になった研究成果はこの段階ではまだ限定的だが、現場の観察と関係者へのインタビューで得られた知見は研究全体を方向づける有意義なものとなった。すなわち、文献やHPである程度まで把握していた公務員制度の日英の差異について、英国で担当者や研究者の話を聞き、オフィスの様子や刑務所内部の運営に直接触れることにより、これまで十分論じられていない新たな論点が発見できたのは大きな収穫であった。 文献レベルで理解しうるのは制度の骨格や違いであるが、日常ルーティンにおける制度の作動状況の中にしばしば行政の本質は宿っている。刑務所の場合、刑務官と受刑者の日常接触、規律の内容と程度、飲食の慣行と許容範囲、独房での所持品の許可などに、また幹部公務員の場合、公募の有無、人事評価の実際、勤務時間、有給休暇の消化度、退職後の活動や年金の額などに、目を引きやすい改革項目以上に重要な論点が含まれていることが少なくない。これは、改革の時代の公務員制度や政策システムを比較する際、何に注目するべきかという研究の基本的視座を再考させる契機となった。 国内では、人事院および国土交通省航空局の幹部と数度にわたり意見交換をすることができた。実務家との一定の距離の保持は行政研究における重要な留意点であるが、概ね健全で緊張関係のある関係が維持されていると思う。 なお、4名の担当者間の議論については、大森准教授が2013年9月からリーブに入ったこともあり、直接の会合の機会はやや限られていた。行政学・政策学・法学と研究分野は近いとはいえ、各々多様なフォーカスと手法をもっているため、相互のシナジー効果を高めるためには各人の研究の特徴をシェアし吸収しあう契機が必要である。2014年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度の柱は米国での調査である。日程を調整中であるが、8月後半にワシントンDCで関係機関・研究者にインタビューを行い、できるだけフォーマットを揃えつつ日米英比較のための素材を集めたい。日本の公務員制度の実態把握については、引き続き関係省庁から聞き取りを行い、秋には小規模のシンポジウムを開催する予定である。とくに、2014年夏には国家公務員法の改正に伴い内閣人事局が発足するので、それに伴う政府内の動向をフォローする。こうしたデータ・情報収集と並行して、定期的に研究会を開催し、成果を小出しに形にしていきたい。また、本テーマに関するデータベースを作成するべく、調査研究のデータや成果を示すホームページを開設する。 最終年度の2015年度の研究計画は、これからの進捗状況を見ながら2014年度後半に固める予定だが、具体的な政策領域をどこまで広げるかを確認しておく必要がある。2013年度は矯正行政(刑務所)と航空管制の焦点を当てたが、さらに金融行政、安全保障、都市計画なども対象に含めたい。出版計画の構想も温め、現時点で「リスクと公務員」という主題をアンブレラとして、多様な分野の政策と人事を安全確保という観点から分析することを想定している。 なお2014年度は西尾が特別研究期間で、冬学期にハワイ大学マノア校で研究を行う予定であり、この機会に本研究を加速させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究分担者のうち二名が専従義務のある別外部資金に採択されたり多忙であったりするなど、平成25年度中は当該研究課題への参画ができず、旅費としての当初配分額を使用できなかった。 平成26年度配分額と合わせ、平成25年度にできなかった海外出張等に積極的に使用していく予定である。
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