研究課題/領域番号 |
25518015
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
釜田 公良 中京大学, 経済学部, 教授 (50224647)
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研究分担者 |
二神 律子 中部学院大学, 経営学部, 教授 (50190111)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会保障 / 公的年金 / 家族 / 居住地 |
研究実績の概要 |
若者の居住地(=勤務地)の決定を考える.居住地選択においては,地域間賃金差とともに,将来,親に介護等のアテンションを提供しなければならない可能性も考慮されるであろう.なぜなら,親子の居住地の距離によって,子がアテンションを提供することのコストは変化するからである.社会保障は高齢者を社会的に扶助するものであるから,家族による扶養の必要性を低下させることを通じて,親と子の居住地に影響を与える可能性がある.われわれは家族公共財(家屋や家電品等の家族で共用できる財)を通じた同居による生活費削減効果を考慮して,居住地選択モデルを構築し,次の結果を得た.比較的低い年金保険料の水準の下では,子は親と同居するが,年金保険料がある水準を超えると,別居することを選択する.年金は,子にとっては親への現金給付を強制されるのと同じことであり,家族公共財への支出という形で所得を移転できるという同居のメリットは低下する.さらに,年金は子の可処分所得を減少をさせるため,より賃金が高い場所に子は居住する. さらに,親の引退後の居住地選択を考慮しモデルを拡張した.親は転居して子と同居することにより,アテンション及び家族公共財の提供を受けられる.一方,転居により,長年住んできた地域の友人など社会的ネットワークが失われるリスクがある.このような転居のコストは転居地が遠いほど大きくなる.得られた結果は次の通りである.当初,子と別居している場合,ある条件のもとで親は転居しないかあるいは転居して子と同居する(子の居住地以外の場所に転居することはない).転居するか否かは親子の居住地の距離に依存する.子は,比較的低い年金保険料の水準の下では,親が転居する距離の中で最も賃金の高い居住地を選択する.しかし,年金保険料がある水準を超えると,より賃金が高い居住地を選ぶため,親は子の居住地に転居せず,別居することになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
親の居住地選択を考慮したモデルに関して,昨年度中に細部の分析を一部残したまま一次的な結果を得ていたが,今年度は細部も含めて厳密な分析を行った.その中で,親が転居しないかあるいは転居して子と同居する(子の居住地以外の場所には転居しない)ための条件の導出に難航するなど,想定を超えた時間を要した.そのため,今年度に予定していた子が複数のケースの分析に十分な時間を割けず,結果を得るまでには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
子が複数のケースについての分析を引き続き行う.わが国では長男や第1子が親と同居するケースも多いと考えられるため,それを説明できる理論モデルが必要である.そこで戦略的動機に基づく親から子への遺産を導入することによってモデルの拡張を図る.親は子にアテンションを提供させるために,子の居住地選択に先んじて「同居するなら遺産を与える」という遺産ルールを提示し, 遺産を用いて子の居住地を操作しようとする.このモデルでは,「第1子が親と同居し,第2子は遠隔地に住む」という均衡が導かれる可能性が存在する.なぜなら,先に居住地を選択する第1子に対して親はまず遺産ルールを提示することになり,第1子がそれに従い同居を選んだならば,親は第2子に対しては遺産ルールを提示しないからである. 次に,社会保障の運営における中央政府と地方政府の役割に関する分析を行う.社会保障が家族の居住地選択に影響を及ぼすならば,それを通じて地域間の人口移動が生じることになる.それを踏まえ,中央政府による一律の政策と地方政府による分権的な政策の何れが望ましいのか.また,地方政府が運営するが中央政府によって地方間の所得再分配が行われるという方法についても検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
分析の精緻化に多くの時間を要し,論文の完成が遅れたため,予定通りには学会等での発表ができなかった.そのため,主に旅費に残が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
学会等での発表の回数と研究者間(代表者,分担者,連携研究者)の打ち合わせの回数を当初の計画よりも増やす予定である.これに旅費を充当する.
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