システムの安全性を評価する確実な方法が必要である。研究者らは、異常出力を起点にシステムの動作を遡りながら異常の可能性を探る逆方向シミュレーションが、安全性評価の効果的な方法と考えている。しかし、逆方向シミュレーションで必要となる各システム要素の逆方向モデルは、一般的には作成が困難である。 まず、逆方向の計算モデル作成が困難な場合があるが、数値逆モデルを導入して解決した。数値化のために異常可能性を逸失しないよう必要十分な数値範囲を逆方向情報として逆流させる。次に、入力が複数ある要素の逆方向は、入力の相互依存関係を値範囲の組で表現し逆流させた。組情報を任意の精度に細分化することで、精度の高いシミュレーションも実現可能である。 具体的な安全性検証対象として、電力需要制御方法として検討が進んでいるダイナミックプライシングをテーマとして、電気ヒータ等の消費電力特性と、ユーザの室温と電気料金に対する応答モデルとを、数値表として順方向モデルを作成し、それを逆方向モデルに変換し、シミュレータを構成した。ひとつの消費電力値に対する室温と電気料金の可能性を複数の値範囲組に分割表現し、それぞれの組に対して逆方向シミュレーションを行った結果、ユーザ利用が制限電力超過をする可能性の場合分け図を作成することができた。 さらに、過渡応答モデルの一般形としてFIRフィルタを想定し、その逆方向シミュレーションを実現した。その結果、一般的な応答モデルに対する逆フィルタが形成できた。その際、精度と計算時間に関する範囲分割数の効果、モデル誤差に対する耐性、ノイズと精度限界の関係についての知見を得ることができた。また、逆方向シミュレーションでは、場合分け数が増大しやすいが、時間同期の取りやすい場合には順方向モデルを組み込むハイブリッド方式で、場合分け数を増大させることなく計算可能なことを見出した。
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