無線通信と音響通信を計算機上で統合するソフトウェア無線・音響統合プラットフォームの研究開発を進めてきた。本年度は特に市販品のマイクとスピーカを備えたソフトウェア音響通信プラットフォームをPC 上に構築し、MATLABを活用したさまざまな条件下の通信実験を実施した。具体的にはまず受信機で、受信信号と同期パターンとの相互相関に基づく同期回復を行う処理の実装を行った。次に、複数のマイクとスピーカを利用し、音量、指向性、機器性能の違いに基づく通信性能の評価を行った。次に、環境雑音、搬送周波数、使用帯域幅などを変数として、通信性能の評価を行った。その結果として、主に使用音響機器の特性として、2kHz以下の周波数は会話などが雑音として重畳すること、帯域幅は8kHzを超えるとビットエラーが増加すること、などを確認した。また、送受信機間の距離、変調方式、誤り訂正符号を変化させた通信実験を実施し、ビットエラー特性の理論値と実測値の対比を行うと共に、数十cmの距離で5kbpsの伝送速度が得られることを確認した。最後に提案するソフトウェア音響プラットフォームの応用として静止画像や音楽の配信実験を行い、正しく送受信できることを確認した。申請時は動画像配信を目標に設定したが、今回の実験では実現できなかった。ただし、これは主に通信速度の問題であり、今後の特性改善に向けた知見は獲得した。 期間全体の成果としては、ソフトウェア無線・音響を用いた静止画配信を実現し、当初の目標をほぼ達成したと考えている。また、本研究成果はIEEE WCNC 2015にも採択され、2015年3月に成果発表を行った。また、本研究開発は音響信号を用いる海中通信の実験の困難さの緩和を目的としていたが、ACM SIGCOMM 2014では音響通信の近距離通信(NFC)応用も提案されており、今後の方向性が拡がっている。
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