研究概要 |
言語や他の高次脳機能と異なり、明らかな適応的意義の見当たらない音楽は、何故どのように進化したのだろうか。本研究は、従来の行動指標の代わりに事象関連電位を用いて、音楽の系統発生を探る試みである。すなわち、和音やメロディーなどの様々な音楽刺激に対する事象関連電位を種間比較することにより、これらの音楽刺激の脳処理の進化を明らかにすることを目的とする。 3年実験計画の初年度にあたる本年度は、マカクザルを対象に、無麻酔で頭皮上から聴覚事象関連電位を記録するための方法論を確立することを目指した。無麻酔・無侵襲で脳波記録を行うため、チェアを用いて必要最低限の保定をしたことと頭部を剃毛した以外は、ヒト脳波記録と全く同じ方法で、頭皮上の9箇所(F3, F4, C3, C4, P3, P4, Fz, Cz, Pz)、左右の耳朶、左眼窩左下に、ヒト用のコロジオン電極を設置した。その上で、スピーカーから提示した和音や純音刺激に対して、聴覚事象関連電位が安定して再現性よく記録できることを確認した。 次に、1頭のアカゲザルを対象に、刺激間時間間隔を様々に変えた周波数弁別オドボール課題でミスマッチ陰性電位を記録するなど、いくつかの探索的な実験を行った。結果、ヒトとサルでは、聴覚処理の時間幅(temporal window of integration)が異なることが示唆されるなど、いくつかの興味深い知見が得られた。
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