研究実績の概要 |
言語や他の高次脳機能と異なり、明らかな適応的意義の見当たらない音楽は、なぜどのように進化したのだろか。本研究は、従来この研究領域において広く用いられてきた行動指標の代わりに、事象関連電位を用いることによって音楽の系統発生を探る、新しい試みである。すなわち、和音やメロディーを始めとする様々な音楽刺激に対する事象関連電位をヒトを含む様々な霊長類で種間比較する事により、これらの聴覚刺激の脳処理の進化を明らかにする事を目的とする。 3年実験計画の2年目にあたる本年度は、無麻酔のアカゲザルの頭皮上から、最大で21チャンネルの脳波を無侵襲で記録するための方法論を独自に確立した。そのうえで、アカゲザル3頭を対象とした実験で聴覚事象関連電位の外因性皮質成分(mP1, mN1, mP2, mN2, mSP)を世界で初めて同定して命名した(英文査読誌投稿中)。 さらに、1~2頭のアカゲザルを対象とした予備的実験をいくつか行い、純音や和音刺激の提示条件(主にstimulus onset asynchrony)を変える事による聴覚事象関連電位成分の振幅の変化を評価し、ヒトとの違いに着目して解析した。結果、ヒトとマカクザルでは、聴覚処理の時間幅が(temporal window of integration)が大きく異なる事が、明らかになってきた。
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