研究実績の概要 |
明らかな適応的意義の見当たらない音楽は、何故どのように進化したのだろうか。本研究は、従来の行動指標の代わりに事象関連電位(ERP)や誘発電位(EP)を用いて、音楽の系統発生を探る試みである。昨年度までの研究で、マカクザルを対象に、無麻酔かつ無侵襲で頭皮上からERP/EPを記録するための方法論を確立した(Itoh et al., 2015)。この方法により、頭皮上の最大19チャンネルから、純音刺激に対する聴覚EPの後期成分を記録し、mP1, mN1, mP2, mN2, mSPの各成分を世界で初めて同定・命名することに成功した。本年度は、これらのEP成分が、純音刺激提示の時間特性(刺激持続時間、刺激間無音間隔)にどのように影響を受けるか検討した。結果、特にN1(mN1)以降の成分について、刺激持続時間や刺激間無音間隔の変化がEP振幅に与える影響には、ヒトとマカクザルの間に顕著な種差があることが分かった。脳の進化に伴い、ヒトで聴覚処理の時間窓が延長していることを示すと解釈できる結果であり、成果をまとめている(Itoh et al., in preparation)。
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