研究課題/領域番号 |
25540056
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 准教授 (90642950)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 老化 / 比較認知科学 / チンパンジー / 人類進化 / 環境エンリッチメント |
研究概要 |
A)老化のビデオカタログの作成:1989年から集積している野生(タンザニア/ギニア)及び飼育下(京都大学霊長類研究所、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ、京都市動物園)のチンパンジーのビデオ記録テープを順次ハードディスクに取り込みファル化を進めている。老化に着目した行動目録にするために、従来の分類に再考を加える必要があり、老化のビデオカタログとしての使用に適した整理基準と公開方法を試行中である。これまで老化現象に特に注目して整理された動画記録はほとんどなく、公開によって関連の研究の活性化に貢献するものと期待する。 B)移入個体の新たな環境への適応過程の観察:京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリと京都市動物園において、他施設から移入した個体の行動を中心に観察・ビデオ記録をしている。老齢になってから移入した個体はいなかったため、既存の老齢個体が移入した若い個体との社会関係を築く過程にも注目してデータ収集を行なっている。 C)ロコモーションを用いた身体的老化の指標の作成:熊本サンクチュアリにて予備的データの収集を行った。二つの大型ケージ間の通路をチンパンジーが移動するようすを高画質ビデオカメラを用いて記録し、動画編集ソフトに取り込んで分析の準備を進めている。 D)新奇な給餌装置の操作:熊本サンクチュアリにて給餌装置の設計、製作準備を行なっている。取り付け場所、方法について飼育担当者と打ち合わせ中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)京都大学霊長類研究所において、観察対象としていた老齢個体が2013年10月に急病で死亡した。観察対象個体の中では最も高齢群に属し、しかも観察者に慣れていて至近距離で撮影できる個体であったが、この個体で期待していたデータの収集が途絶えてしまった。 2)京都大学熊本サンクチュアリへのボノボの導入が当初の予定より遅れ、2013年11月であった。このため観察の開始が遅れた。また、観察対象の多様化という面では好機であったが、これまで日本で飼育していないボノボの導入ということで、飼育スタッフを始め関係者が予想以上に多忙になり、実験のための給餌装置の設置等を予定通りに行なうことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)大幅な見直しが予測されるのはロコモーションを用いた老化の指標の作成である。熊本サンクチュアリで行なった予備調査と分析では、歩行する床面の状態や気温の影響と見られるばらつきが大きく、期待した結果が得られていない。日常の飼育と群れ構成の入れ替えのためのケージ間の移動を利用してデータをとるため、必ずしもデータのためだけの移動条件が選べない。今年度前半はデータの収集場所を変更するなどの方策をためし、不調であれば別の老化の指標を設定するなど柔軟に対処したい。 2)観察対象の比重を老齢個体に置くと、死亡などによるデータの途絶の影響が大きいことがわかった。対象年齢を広げ、長いスパンでデータを蓄積する方向に切り替えて行きたい。こうした変更に対処するため、本年度に予定していた西アフリカでの調査を最終年度に繰り延べ、今年度は国内施設に集中することにした。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリでの研究よりも、特に注目すべき老齢個体がいた京都大学霊長類研究所でのデータ収集を優先したため、当初の計画よりも熊本への訪問回数が少なくなり、交通費が予算より少ない支出となった。 また、行動観察に利用する給餌装置は既存の材料を利用しての試作段階であるため、物品の購入がなかった。データ収集用のカメラ、その他の記録装置、分析用のパソコンも既存のものを優先して使用したため、新規の購入がなかった。パソコンは次年度に編集ソフトの更改が予測されるため、それを待って最新機種の導入を予定している。 今年度は熊本滞在日数を増やし、熊本サンクチュアリでのデータ収集の遅れを取り戻していきたい。京都大学霊長類研究所(犬山市)、京都市動物園でも引き続き可能な限りデータ収集を行なうため、当該年度で使い残した交通費を支出する。 実験用の給餌装置についても今年度から本格的に使用するため、製作費を支出する。データの分析に本格的に入るため外部記憶装置、パソコン本体、高解像度モニターなどを購入する。
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