平成27年度には,主に3Dプリンタを用いて錯触刺激を作成し,錯触量を測定する実験を行った.まず,本研究の過程でわれわれが発見したlattice tactile illusion(格子錯触)と2005年に発見されたfishbone tactile illusion(魚の骨錯触)を錯触測定用の刺激として用い,さまざまな条件の刺激パターンを提示したときの錯触量を測定した.また,これらの実験結果から錯触の起こる機序について推定した.その結果,格子錯触と魚の骨錯触の錯触量は,刺激表面の「摩擦」に関連して起こると考えられた.ただし,ここで言う「摩擦」は,トライボロジーで取り上げられるような物理的摩擦とは必ずしも一致せず,観察者の感じる主観的な摩擦であると推定された. 平成26年度までに行ったVelvet Hand Illusion(VHI)では,固定された金網を両手で挟んで,両手を合わせたまま同時に動かすと,互いに触れている手の表面を非常になめらかに柔らかく感じる錯触が生じる.心理物理実験と脳機能イメージングによる実験の結果,VHIにおける錯触も,金網上に(本来は存在しない)連続した表面が存在すると脳が神経情報処理レベルで錯覚するために生ずるものと推定された. われわれの実施した錯触実験はいずれも刺激の表面知覚に関連するものであり,表面の物理的特徴とその表面の知覚とのずれが錯触を引き起こすものと考えられた. 平成25,26年度に実施したVHIのfMRI実験については,そのまとめをHawaiiで開催された国際学会で発表した.そのほかの平成25~27年度に実施した研究については,本年度の国内外の学会で発表した.または,発表準備中である.また,本研究の成果を報告する論文についても,既発表,投稿中,執筆中である.
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