近接検知手法の有効性検討のため、LED光をプローブとした近接距離検知における温度や環境光の電気インピーダンスへの影響を計測した。その結果、温度に対しては1℃あたり-0.5%程度のインピーダンス変化となり、近接距離にして最大1mmの誤差となる。このため、高温の物体が接近する場合等での温度補正の必要性が示された。また、環境光については、一般の製造工場等での照度基準(500lx)の明滅に対し、-1.2%程度の変化となり、通常の一定照明下での誤差はそれよりはるかに小さいものとなる。 また、光での近接検知では接触直前の検知が困難となる。そこで、電極間静電容量変化により接触状態検知の可能性を検討した。Si基板の代わりに光に対して感度を持たないガラス基板を用いた試料を作製し、PTFE板が試料に接触した状態から離れていくにつれ、インピーダンスは単調に減少した。これは、有限要素法による電界分布解析から、配線間の誘電率に依存した静電容量の減少によるものと示された。 さらに、近接・触覚同時計測用の複合センサを設計した。電極間距離に対するインピーダンスの光強度依存性から、導電率よりも空乏層容量が光に対する感度が大きいことが分かった。また、基板としてはn型よりp型の方が電極の仕事関数との関係から光感度が高いことを明らかにした。これにより、近接・触覚複合検知センサの設計指針を見出した。 研究期間を通じて、Siを用いて作製したMEMSカンチレバーセンサにより、カンチレバー上のひずみゲージの直流抵抗変化により接触力を、高周波でのインピーダンス変化により物体近接を、単一の素子・回路にて複合的に検知する原理について解明し、その設計手法を確立した。今後は、より簡便な計測システムの構築や外乱の影響を排除する手法について検討するとともに、近接・触覚複合計測を応用し、視覚的情報を含めた複合的質感計測法に展開していく。
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