研究課題/領域番号 |
25540071
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鏑木 時彦 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (30325568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音声生成 / 調音器官 / 調音運動 / 磁気センサ / 3次元測定 / 測定精度 / 磁界シミュレーション / システム最適化 |
研究概要 |
音声生成過程における調音器官の運動を高精度に測定するため、3次元磁気センサの開発をおこなっている。本システムは、6個の送信コイルよりそれぞれ異なる周波数の交流磁界を発生し、マーカーである受信コイルに誘導される信号強度より、マーカーの3次元位置および傾きを検出するものである。このマーカーを複数使用することによって、舌、唇、下顎、軟口蓋など、主要な音声器官の運動を、それぞれ100Hz以上のサンプリングレートで測定することが可能になる。さらに、調音運動と同時に音声の収録も可能であり、調音運動と音声の音響特性の間の関係を明らかにすることもできる。 これまでの研究により、3次元磁気センサにおける重要な問題点として、測定領域内の部分領域において測定精度が劣化することがわかっていた。この問題に対して、我々は、この特異的な不安定領域が生じる原因として、6個の送信コイルが生成する磁界の空間的なパタンに問題があると仮定し、受信信号強度の類似性を尺度とする評価関数のもとに、最適なコイル配置の探索を、磁界の計算機シミュレーションに基づいて行った。その結果、当初のコイル配置においては、異なる位置において類似した受信信号が生じる可能性が高いことが示された。さらに、シミュレーションに基づくコイル配置の最適化によって、このような受信信号の類似性を解消することができることがわかった。 つぎに、シミュレーションによって得られたコイル配置に基づき、我々が構築したハードウェアシステムを用いて、システムの測定精度の検証を行った。その結果、平均測定誤差がおおむね0.5mm以下となることがわかり、今回のシステム最適化の妥当性を実証することができた。しかしながら、受信コイルが回転した場合には、測定誤差が増大する問題が課題として残された。この問題を解決することが、平成26年度の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は、磁界の計算機シミュレーションに基づいて送信コイルが生成する磁界を模擬し、測定領域内の各点における磁界パタンを予測し、異なる位置での受信信号が同一となるような、受信信号の類似性を評価関数として表して、送信コイルの配置の最適化を行った。さらに、実際のハードウェアシステムを用いて、最適化された送信コイルの配置に基づいて測定精度を検証し、その有効性を確かめることができた。以上のように、現時点までの研究の達成度は、当初の予定にほぼ従ったものであると考えることができる。平成25年度は、上記の内容に基づいて、国内での学会発表を2件おこない、さらに国際会議への論文投稿をおこなった。このように、研究成果の外部発表という意味でも、実績を挙げることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の検討により、6個の送信コイルの配置を最適化することで、従来のシステムの問題点であった不安定領域の解消を行うことができた。また、実際のハードウェアシステムを用いて、その有効性を検証した。この検証の結果、受信コイルの傾斜が小さい場合には、測定誤差を0.5mm以下におさえることができ、調音運動の測定システムとしては十分な空間分解能を有することが示された。しかしながら、受信コイルの傾斜が大きくなるに従って、システムの測定精度が低下することが、今後解決すべき問題として明確になった。実際の観測では、発話中の調音器官の柔軟な運動によって、コイルの傾斜が生じることはさけられない。また、システム校正時の受信コイルの向きと、観測時の向きとが異なることは、容易におこり得る。従って、平成26年度は、受信コイルの傾斜の増加に対する測定精度の劣化をおさえることが、最も重要な検討課題である。これについては、現在、送信コイルの個数を6個から8個に増やすことで、受信コイルの位置決定における最適化問題の冗長性を増加させ、測定精度の向上につなげることを考えている。また、そのためのハードウェアシステムの準備をおこなっている。その他、平成25年度の検討内容は一定のレベルに達していることから、研究成果を雑誌論文に投稿することも必要である。投稿中の国際会議については、査読の結果を待って発表をおこなうことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年3月10日~12日に行われた日本音響学会春季研究発表会への参加のため、当初、参加費に該当する予算を確保していたが、異なる予算から支出することになったため9000円の余剰が生じた。 平成26年8月3日~5日に開催予定の日本音響学会秋季研究発表会へ参加する予定であり、そのための参加費として使用する計画である。
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