遠方に広がる風景をディスプレイ装置で再現する場合、一般には投影式の大画面を用いて視距離を長くとる方法がとられているが、大がかりな設備が必要となる。訓練用フライトシミュレータ等ではCollimated Displayと呼ばれる大型の凹面鏡を用いて投影画像の光学的虚像を得る方式が採用されているが、視域が狭いため利用形態が着座式のシミュレータなどに限定される上、大型の光学系のため設計や調整が難しく高価である、といった問題がある。そこで本研究では投影スクリーン自体の作用で光学的虚像を直接作り出す、新しい投影技術を提案する。提案する投影スクリーンの基本的な構成は凸レンズアレイと拡散スクリーンの組み合わせとなる。プロジェクタから無限遠に焦点を合わせて投影された像はレンズアレイの各レンズによって拡散スクリーン上に結像する。そしてその像点は拡散スクリーンで拡散反射され、同じレンズによって入射方向と逆向きの平行光線となって射出され、無限遠からの物体光を再現する。このようにして虚像が生成される。25年度は基本原理の確立を目的として、計算機シミュレーションと実際に光学系を用いた実験を実施した。実験ではレンズアレイを用いる代わりに電動XYステージを用いて単レンズの位置を順次変化させながら撮影し、それらを合成することで再現画像を生成し、提案方式の基本原理を実証すると共に、レンズパラメータと得られる像との関係についての知見を得た。さらに、辺縁のレンズに生じる像のボケの主因が像面湾曲収差であることを突き止め、これを考慮してレンズとスクリーンとの距離を制御する改善法を提案した。26年度は前年度に得た画像劣化に関する知識を元に、新たにレンズアレイ配列の湾曲させる構造と、大口径レンズを組み合わせる方法、をそれぞれ提案し、レンズアレイを用いた実験によって提案方式全体の有効性および画質改善法の効果を確認した。
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