本研究の目的は,ウェアラブルコンピューティングの普及による常時情報閲覧環境において,ユーザの心身への影響があるかないか,また,正しく情報を伝えるためにはどのような仕組みが必要かをあきらかにすることである.具体的には(1)虚偽情報フィードバックに基づく身体情報制御技術の確立,(2)プライミング効果を考慮した情報提示技術の確立,(3)状況認識技術を活用した状況別の情報認知特性の評価研究,の3点のサブテーマを推進した.その成果として,プライミング効果により,装着型ディスプレイに表示した内容が人間の行動に影響を与えることを示した.また,ダンスパフォーマンスにおける情報提示方法がダンサーに与える影響の評価や,メディアアート作品などで情報提示を適切に行うための枠組みを提案する研究を行い,それぞれの成果がジャーナル採択されている.前者の研究は,画面上のアイコン画像などの些細な情報が人間の行動に影響を与えることを明らかにした点で画期的な成果であった.さらに,状況に応じて,人間への情報提示の認知度がどう変化するかを調査した研究が複数の国際会議に採択された.これは,例えばマルチモーダルな情報提示環境において,周辺状況に応じてその提示手段を用いるかを選択するアルゴリズムに関するものである.これらの成果は常時情報閲覧環境における情報提示の基盤として活用可能なものとなっており研究成果としては申し分ない.また,神戸市と連携した観光案内システムへの応用や,教育現場におけるデータ取得を行うなど現場での応用まで行いつつあり,社会実装へも進みつつある.
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