本研究計画では、複雑ネットワーク上の活性・抑制因子系や非線形振動子系の反応拡散系における非一様パターンやダイナミクスの自己組織化を詳しく解析してきた。研究期間中に実施した研究課題の一部は以下の通りである。(i) [最終年度] 複雑ネットワークにおけるLaplacian固有ベクトルの局在現象の解析。幅広い次数分布を持つネットワークではLaplacian固有ベクトルの成分が特徴的な次数を持つノード群上に強く局在する傾向があり、ネットワークダイナミクスの理解に重要である。この局在現象をLaplacian行列の摂動理論による解析によって定性的に説明できることを示した。また、理論的な結果をいくつかの具体的なネットワークの数理モデルと実際の線虫の神経ネットワークのデータを用いたLaplacian固有ベクトルの数値計算によって例示した。(ii) 複雑ネットワーク上のノイズを受けた双安定素子集団の秩序化の解析。相互作用する双安定系は統計物理学の古典的な研究対象だが、相互作用が複雑ネットワークである場合の解析を行った。その結果、これまで大域結合の場合に知られていた秩序・無秩序転移がネットワーク上でも生じること、また、その転移の際の秩序化ダイナミクスが、複雑ネットワーク特有のノードの次数に強く依存するものであることを、平均場近似と非線形Fokker-Planck方程式を用いた解析により示した。(iii) 複雑ネットワーク上の3成分反応拡散系における振動的不安定性に関する研究。過去の研究で行った2成分の活性因子・抑制因子の反応拡散系におけるTuring不安定性の解析を、3成分の因子からなる反応拡散系に拡張して振動的な不安定性が生じることを示し、自己組織化されるパターンについて議論した。これらの研究成果については、論文を国際学術誌に出版するとともに、国内外での学会や研究会で発表した。
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