研究課題/領域番号 |
25540116
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岡田 昌史 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (60323523)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動最適化 / 胸骨圧迫 / 人の力学モデル |
研究概要 |
本年度は,子どもが行う胸骨圧迫のための運動最適化と道具の最適化を行った.胸骨圧迫を行う人をリンク系でモデル化する.運動途中に関節の発生するトルクの時間二乗積分値を評価関数として,各関節の時間軌道,胸部を圧迫する時間(タイミング),および患者との距離(膝を着く位置)を設計変数とし,勾配法を用いて評価関数を最小化する運動を求めた.なお,人が閉リンク系を構成すること,膝からの床反力が正であることを拘束条件としている.ここで,運動の周期性を利用して,関節角度データと角速度,角加速度の関係を簡易に表した点において大きな新規性を有している.これにより,任意の運動軌道を実現可能としている.また,東京防災救急協会の協力のもと,これが熟練者(救命士)の運動と一致することをモーションキャプチャデータとの比較により示した.この結果から,提案手法による最適化で得られた運動は,人の運動特性を良く表していることを示した. さらに,人のモデルのパラメータ(長さ,質量)を小学5年生の平均値に合わせて最適化を行ったところ,膝からの床反力が正になるという条件から,適切な運動が行いにくいことを示し,これを補うために背中に重りを背負うことを提案するとともに,上記の最適化計算において重りの質量を設計パラメータと設定することで,重りの最適化を行った. 得られた重りの最適解に合わせて運動訓練用重り付きジャケットの重りの量を調整し,体重が45kg前後の訓練者(初心者および熟練者)の運動を観察することで,胸骨圧迫が実施しやすくなることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目的であった,「運動の最適化」,および「道具の最適化」についてはその計算アルゴリズムの確立,および検証まで行っており達成できた.特に,胸骨圧迫のモデルに関して検討を行い,これまでの結果に対して,リンク系の自由度の観点から再検討を行い,より人間の動きを反映したモデルへと修整を行った.また,胸骨を圧迫するタイミングを設計変数とするために,時間の最適化法を実装し,さらに,背負う重りの位置,実現法を検討し,これら全てを設計変数とする最適化アルゴリズムを提案した.また,最適化された重りを実装した場合としない場合の比較から,重りを実装することで胸骨圧迫が楽に行えることを確認した.今後は,社会実装を目指して実際の講習会の現場に使用可能なシステムの構築を行う.ただし,本年度の計画であった人の運動計測装置については検討の余地がある.当初は加速度センサやジャイロセンサを用いてポータブルなシステム設計を行う予定であったが,センサのキャリブレーションなどから実際の場での使用は不向きであること判断し当初購入予定であったセンサの購入を見合わせた.その代替案として光学式の簡易モーションキャプチャを用いることを検討しており,本年度はKinectを購入してデータI/O,PCとの接続に関して検討した.特に,Kinect内部に設定されている人モデルを胸骨圧迫のための人モデルへの変換方法,リアルタイムでの実装に主眼を置く.
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今後の研究の推進方策 |
提案する胸骨圧迫訓練法を実際の現場に反映させることに主眼を置く.そのために,東京防災救急協会の協力をお願いし,実装に至るための検討を実施する.実際の現場(講習会)で使用するためには,簡易システムでのモーションキャプチャが必要であり,さらに,取得データに基づいた目標姿勢の更新を即座に計算する必要がある.そこで,今後はシステム開発と更新アルゴリズムの構築を行う.簡易モーションキャプチャシステムは,本年度購入したKinectをベースとし,さらに,圧迫力を計測するための力センサ,それらのデータを取得するノートPCからなる.更新アルゴリズムに関しては,これまでの手法は人の身体力学モデルに基づいており,その強い非線形性から多くの計算量を要しているが,これを変化量のみを扱うようにし,数回の練習で目標の運動を実施可能とするための学習アルゴリズムとする.また,訓練者の身長・体重を数段階に分け,それらに合わせた最適な補助道具の設計も行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度購入予定であったリンク姿勢角度センサ・無線傾斜センサはキャリブレーションに時間を要するため購入を見送った.また,その費用で補助道具の設計を計画したが,今年度は運動訓練用ジャケット(ジャケットに重りを入れるもの)を使用したため安価に納まった. 今年度使用したジャケットは,重りの位置や配置によって重心位置が大きく変化し,所望のものに調整するには多くの時間を費やすことが判明しており,次年度はこの補助道具の設計に繰越金を使用する予定である.
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