最終年度においては,前年度までに構築されたビジュアルトラッキング情報に基づいてマイクロ移動ロボットを遠隔制御するための制御システムを用いた基礎的な制御実験・試行の結果をふまえて,マイクロ移動ロボットを操縦することで実スケールでの音およびフェロモンによる化学刺激をクロコオロギに提示することでに相互作用する実験を行った.具体的には,マイクロロボット1台とクロコオロギ1個体間での相互作用による配偶行動を対象として相互作用実験を行った.これまでの研究過程において得られた知見に基づいてマイクロ移動ロボットの行動制御アルゴリズムを設計・実装し,コオロギと自動的な相互作用実験を試行した.実験時にはいくつかの制御パターンを用意することで,コオロギの行動を任意に誘導する可能性について検証した.さらに,長時間の相互作用実験を実施することでコオロギの反応の時間変化について観察を行い,短期的な反応とはことなる場合があることを明らかにした.また,小型スピーカーから音声再生を行う装置によって,コオロギの鳴音や音声源を変化させることでコオロギの反応について観察・記録を行った. さらに,コオロギの行動切り替え神経機構解明のために行動生理実験を実施した.コオロギの配偶行動では,オスの誘引歌に対して音源にメスが定位するため,配偶行動の初期ではメスに配偶者を選ぶ選択権があると考え,オスの誘引歌に対して定位するかしないかについて実時間でメスが意思決定する脳の働きに注目した.メスコオロギにオスの誘引歌を聞かせ,その時の脳内神経修飾物質の生体アミンについて,高速液体クロマトグラフィー法を使い定性定量的に調べたところ,セロトニンやオクトパミンでは変化が見られなかったが,ドーパミンとチラミンの量が増加する傾向にあった.このことから,配偶行動の発現には脳内のドーパミンやチラミンが配偶行動の誘発に関与することが示唆された.
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