研究課題/領域番号 |
25540120
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中本 高道 東京工業大学, 精密工学研究所, 教授 (20198261)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感性インタフェース / バーチャルリアリティ / 嗅覚ディスプレイ / メディアアート / SAWデバイス / マイクロポンプ |
研究概要 |
本年度は小型嗅覚ディスプレイのハードウエアの開発を中心に研究を行った。複数のマイクロポンプから液滴を供給し、その液滴をSAWデバイスで霧化して人の鼻に匂いを供給する嗅覚ディスプレイを製作した。 マイクロポンプ駆動には250Vp-p程度の交流電圧が必要であるが、駆動回路をパワーMOS FETを用いて製作した。また、このポンプの駆動時間、周波数をタブレットPCからのコマンドに応じてFPGAで制御する回路とソフトウエアを開発した。さらに最適な駆動条件を探すために、駆動周波数と流量の関係を明らかにした。そして、SAWデバイスを駆動するのにRFモジュールを実装した。また、SAWデバイス毎に駆動周波数が異なるために、FPGA内にDDSを実装し駆動周波数を可変にする機能を設け、RFバースト波を発生できるようにした。その繰り返し周期、duty cycleもタブレットPCからFPGAを介して設定できるようにした。また、マッチング回路を組み込み霧化の効率化を図った。そして、バッテリも含めてタブレットPCサイズ程度で8成分調合可能な嗅覚ディスプレイを試作した。 実験としては低揮発性香気成分を含む香りの提示を行い、水晶振動子センサによる計測と人による官能評価を行った。その結果、低揮発性香気成分を用いた場合でも残香の少ない嗅覚ディスプレイができることを確かめた。さらに、香りの調合実験を行い、調合された香りが発生できること水晶振動子センサを用いて確認した。 一方、香りと音を用いたコンテンツとして、Virtual ice cream shopを作成した。アイスクリームの画像に合わせて、音楽と香りを体験者に供給する。このコンテンツをベルリンで行われたDigital olfaction congressで公開実演を行い、好評を博した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は嗅覚ディスプレイの小型化を行い、多成分調合可能で手に持ってタブレットPCと同じように持ち運びできる程度のサイズの装置に試作に成功した。交付申請書に記載したwearable嗅覚ディスプレイの一歩手前までは実現できたと言える。 さらに音楽と関連させた嗅覚ディスプレイのコンテンツを制作した。そして、そのコンテンツをドイツ・ベルリンの国際会議において実演して、好評を博すことができた。ただし、その際は本研究で開発した嗅覚ディスプレイは間に合わなかったので1世代前の高速電磁弁開閉方式の嗅覚ディスプレイを用いた。今後、SAWデバイスとマイクロポンプを用いた嗅覚ディスプレイを用いて1世代前の嗅覚ディスプレイと比較検討する必要がある。また、ここで制作したvirtual ice cream shopは映像、音楽、香りを提示するものであった。しかし、映像は体験者に強い印象を与えるために、作品の中で各感覚のバランスを考慮しないと音楽の印象が薄れてしまうこともわかったので、今後の作品作りに生かしたい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度開発した嗅覚ディスプレイは、タブレットPC程度のサイズに収めたものであったが、さらに小型化、軽量化できる可能性がある。まずマイクロポンプとして、さらに小型のものを使用する。さらにマイクロポンプの駆動回路をよりコンパクトにする。マイクロポンプでは通常アクチュエータを使用するために100-200Vpp程度の高電圧の交流波形を作り出す必要がある。前年度は高電圧をDC-DCコンバータで生成しパワーMOSでスイッチングしていたが、昇圧チョッパ回路で簡便な回路で高電圧発生が可能である。その結果、DC-DCコンバータも不要となりさらに回路規模を削減できる。そこで、さらに小型化を進めてwearableを目指す。 また、本方式の嗅覚ディスプレイは素早く香り提示ができるので、香りを明瞭に提示できる点で優れていると考えられるが、これも瓶から直接香りを嗅いだ場合、高速電磁弁開閉方式との比較を官能検査により行いたい。 最後に香りと音楽のコンテンツを制作する。まず、和音とそれにマッチングする香りを探索する。次に1小節程度のメロディを作成してそれにマッチングする香りを検討する。最後に音楽に対して香りも時間的に変化させて提示し、そのマッチングを検討し、喜怒哀楽や感情の昂揚・鎮静に合わせて香りを提示し、その効果を高められるかを検討する。そして、できあがった作品を国際会議リサーチデモ等に出展し、アンケート調査を通じて音楽と香りの調和による効果を検討する。
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