本研究は、日々成長する毛髪に含まれると推定されるストレス・ホルモンを毛髪の断面により分析することで言わばストレスの変遷(日変化)を可視化しようとする試みである。結論から述べれば、毛髪断面からのストレス・ホルモンの分析における技術的課題をクリアするには至らなかった。しかしながら、新たに明らかになった課題のいくらかは解決し、また今後の課題について明確になったため、今後、研究を継続する上で有用な成果が得られた。以下にその概要を述べる。第一に、毛髪断面の作成において当初予定していたクリオスタットは毛髪資料の包埋材料に対する毛髪の外側のケラチン構造が固く、断面化することができなかった。しかし、これに対しては後に別の物理的手段を用いて解決し、生体の毛髪を3cm以上作成することが出来るようになった。次に、生体のあらゆる物質の概日変化が毛髪内に記録されているという想定の元、毛髪断面のタンパク質染色を実施した。これについては、当初は染色の効果が認められなかったが、検討を重ねた結果、最終的には断面をアガロース等のゲルで固着することで解決した。しかしながら、断面の染色結果について当初期待していた程、明確な周期的パターンは確認されなかった。この為、特定のタンパク質の概日変化自体を再検証する為の終夜睡眠実験を行ったところ、特定のタンパク質は起床時においてのみ特異的な分泌を示す事が判明し、これはやはり毛髪中にある種の周期的パターンの存在を強く示唆するものであった。現在は抗体による特定のホルモンの蛍光定量分析に取り組んでいるが、両実験を通じて最も困難な課題は、毛髪断面からのターゲット物質の流出を抑制しつつ、可視化する為の染色物質や蛍光抗体物質を毛髪断面まで届ける、というある意味で矛盾した操作を実現しなければならない点である。これについては、今後もいくつかのアイディアを実施する。
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