これまでの2年間の研究から,(1)プローブ刺激法は映像に向けられる注意の程度を測るのに有用であるが,心理生理状態に干渉するため,接近-回避の動機づけ状態の検討には向かないこと,(2)不快画像を見ているときは快画像を見ているときに比べて右前頭部の脳波アルファ帯域パワーが低下する傾向があるが,信号/ノイズ比が低く,結果が安定しないことが示された。そこで,平成27年度は,信号/ノイズ比を高めるために,評価対象の画像を高速で点滅させ,それに対する誘発電位(定常状態視覚誘発電位;steady-state visual evoked potential: SSVEP)を測定する方法を検討した。刺激画像として,接近動機づけを引き起こす程度の異なる2種類の写真(幼児の写真 vs. 成人の写真)を用いた。2種類の画像を12.5 Hzで点滅させて3秒に1枚ずつランダムな順序で提示した。25人の成人が実験に参加した。脳波は128チャネルで記録し,高速フーリエ変換により刺激提示後2秒間のパワー値を求めた。点滅周波数の12.5 Hzとそのハーモニクス25 Hzにパワーの増大が認められたが,動機づけ状態の違いによる前頭部左右差は認められなかった。本研究では,接近-回避動機づけ状態の新しい測定法を開発するという挑戦的な目標を掲げたが,プローブ刺激法,背景脳波,SSVEPのいずれの方法を使っても,動機づけ状態の方向性と程度を高精度で推定することはできなかった。脳波の左右半球差には安静時にも個人差が存在することが知られているので,今後はその点を考慮した分析法を検討する必要がある。
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