工業製品の機能の充実化が進む中,付加価値を高めるために製品外観の質感を操作する方法がある.しかし,質感は様々な感覚要素で構成されているため定量化が難しく,明確な設計指針は未だ確立されていない.本申請課題では,「質感」を定量化するため表面の「粗さ」に着目し,自動車内装材に用いられるシボサンプルを試料として,感覚量を考慮した粗さの設計目標値の設定に使用可能な尺度を提案することを目的とした.粗さの感覚量はシボ表面を指で触った際の粗さ感とし,物理量はISO25178-2(2012)に準じた面領域の表面性状パラメータの値を用いた. まず,被験者実験より得られた粗さの感覚量と面領域の表面性状パラメータの関係を調べた結果,最も相関が高かったのはコアの材料体積Vmcであった.これは突出した山や谷を除いた材料の体積であり,巨視的な凸部の体積を表している.従って,シボの大まかな形状の起伏を粗さ感として評価していると考察した.次に,Vmcを粗さの物理量として粗さ感の尺度構成を行い,全く粗くないと評価される表面,やや粗い及び粗いと評価される表面の境界値を示すVmcの値を求めた.また被験者属性の影響を調べるため,性別や,指先の水分量,油分量,弾力,皮膚温度といった皮膚特性と粗さ感の関係についても検討した.その際,環境温度を変えるため同じ実験を夏季と冬季に実施し比較した.環境温度の違いにより指先の水分量と皮膚温度は変化したが,粗さ感の評価に性別や皮膚特性の影響はほとんどなかった. さらに,振動のない静的環境下と振動のある動的環境下での粗さ感の評価を比較した結果,静的環境下では,シボのパターンが変化しても粗さ感の評価に差はほとんどなかった.一方,動的環境の場合,振動条件の違いによる粗さ感の評価にほとんど変化は見られなかったが,シボのパターンが異なる場合,粗さ感の評価が変化することを示唆する結果が得られた.
|