研究課題/領域番号 |
25540128
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
舟橋 厚 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 教育福祉学部, 室長 (10190125)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害児 / 動物介在活動 / ASD児の笑顔とポジテイブな社会的行動促進 / ASD児の笑顔とネガテイブな社会的行動の減少 / 笑顔識別インタフェイス / 快情動場理論 |
研究概要 |
動物介在活動(Animal-assisted activities: AAA)を自閉症スペクトラム障害児(ASD児)に対して実施すると、問題行動の減少やコミュニケーション行動の促進が観察される。この現象にはASD児に快情動場が形成されることが重要であるとの理論的な仮説を証明するため、笑顔を指標として笑顔の客観的な定量的測定を装着型笑顔識別インターフェイスを用いて実施した。25年度はASD児9名と一般児童5名に対して、動物介在活動のセッションを個別に実施した。まず、準備室(プレイルーム:AAA(ドッグ)室と別室)で笑顔認識インタフェイス(デバイス)をこめかみに装着し、ニュートラルな刺激(風景画像20枚)を2秒ずつランダムに提示しその間の笑顔生起状況を測定し、笑顔生起頻度のベースラインとした。次に被験者はデバイスを装着したままプレイルームからAAA室へ徒歩で移動した。動物介在活動は隔月1回程度で個別実施(1セッション30~40分間)した。AAA終了後、準備室まで歩行で移動しセッション終了とした。セッション開始から終了まで、デバイスの測定を行い、また、ビデオで児童の表情、ジェスチャー、行動(特に、犬との関わり方や、ドッグセラピストや母親との関わり方など)を記録・解析した。動物介在活動が終了したら、AAA室からプレイルームに徒歩で移動した。その後、ポストセッションとして、ロボット介在活動を動物介在活動と同様の手続きで行い、その間の、笑顔をデバイスで測定し、ビデオ撮影によりASD児の行動を詳細に記録した。各児童について10回程度のセッションを行動変化が確認できるまで隔月1回のペースで継続した。動物介在活動とロボット介在活動の両者について笑顔に関連するEMG信号とポジテイブ・あるいはネガテイブな社会的行動等のデータが順調に取得でき、解析も順調に行えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始前はASD児への本デバイスの装着自体が難しいと予想していたが、1)13名中9名のASD児が自発的に電極を装着できたこと、2)動物介在活動に用いた犬が「かまない、ほえない、人と接触することが大好き」という特徴を持ち、よく訓練された犬であったこと、3)ロボット介在活動ではロボットを怖がるASD児はゼロであったこと、4)保護者の方々がとても協力的であったこと、5)科研費で購入したDartFish行動解析装置によりミリ秒単位での自閉症児の行動解析が可能であったこと、6)無線でEMGシグナルを飛ばしたため、動物介在活動中、ASD児が自由に動き回ることが可能であったため、忠実にASD児の笑顔をセッション開始から終了まで連続で測定できたこと、などにより、ノイズの少ないsmile related MEG signal が各ASD児について詳細に取得できたことが今回の研究で予想以上の成果が得られた理由である。 その結果、動物介在活動については1)ASD児の笑顔が増えると彼らのポジテイブな社会的行動が促進されること、2)ASD児の笑顔が増えると彼らのネガテイブな社会的行動が減少し、最後はゼロに収束すること、3)ASD児の笑顔はセッションを重ねると増加し、第4セッション(7か月後)には一般児と同じ程度の笑顔量が生起するASD児も出現したこと、4)一方、ASD児のポジテイブな社会的行動はセッションを重ねると増加するが、一般児のポジテイブな社会的行動の量とは絶対値に初回からかなりの違いがあるため、一般児レベルまでには到達できなかったことなどが統計的にも裏付けられる結果を得ることができた。ロボット介在活動についても1)ASD児は初回遭遇時からロボットを怖がらず、ネガテイブな社会的行動がゼロであったこと、2)普通児と同じレベルまでロボットに対しては笑顔が生起したこと、などが見出された。
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究結果により動物介在活動中の9名のASD児についての詳細な笑顔量と社会的行動の分析により、統計的な差異を見出すことができ、一般的な傾向として動物介在活動によりASD児に笑顔が生起するような社会的な環境に彼らを導くと社会的に望ましい行動が促進され、社会的に望ましくない行動が減少することを明らかにすることができた。 今後は、一人ひとりのASD児について、笑顔がどのように発達するかを縦断的に研究したい。そのためには25年度のデータに加えて、26年度27年度も同様に動物介在活動を継続し、縦断的データの取得を目指す。同時に、すでに25年度の取得データにおいて、現象が確認されたことであるが、ASD児は典型的な笑顔を示すsmile related EMG signals を生起させる前に、未成熟なsmile related EMG signals を示すことがある。これを我々はbaby smile (ベビーユニバースにちなんで名付けた概念である)と呼び、このbaby smile の形成過程とその後の成熟過程について詳細に解析する計画である。文字通り、赤ちゃんの未成熟な笑顔もこのbaby smileから構成されるが、このbaby smile はあかちゃんの発達とともに成熟したsmileへの変化していくという仮説を提案し、ASD児において、このbaby smile の形成がどのようは偏移を示すかを明らかにしたい。 このことが明らかになれば、smile の発達過程のモニターにより、ASD児の早期発見と早期治療に対するブレイクスルーが可能であると考えられる。また、ロボット介在活動につては動物介在活動が比較的苦手なASD児に対するコミュニケーションアプローチ手段として極めて優れた方法であることが示唆されたので、さらに解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は笑顔とポジテイブな社会的行動およびネガテイブな社会的行動との関係などをASD児9名と一般児童6名との比較などで統計的に解析し、一般的な傾向について統計的に有意差のある結果を得た。今後はさらに、ASD児一人ひとりの笑顔の発達過程について、詳細に検討する必要があり、そのために物品費等が必要である。 データとして取得した動画データを保存するためのDVDやダートフィッシュ行動解析装置によるデータ解析のアルバイト費用として使用する。
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