研究課題/領域番号 |
25540154
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植田 一博 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (60262101)
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研究分担者 |
森田 寿郎 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30329081)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 芸術諸学 / 認知科学 / 計測工学 / 文楽 |
研究概要 |
文楽人形遣いにとって「息の合った」状態とは何かを科学的に明らかにするために,主遣いが他の人形遣いに発する合図であり,人形動作自体に隠されている「ず」がどのようにして合図として機能しているのかを詳細に分析することが目的である. この目的のために,まず,人形動作の取得が可能な,センサーを内蔵した計測用文楽人形(男役の立役の人形)を設計し,実際の製作を人形細工師に依頼した.具体的には,傾城反魂香に登場する狩野雅楽之介の人形の内部12箇所(頭2箇所,両手に3箇所ずつ,胴体2箇所,両足に1箇所ずつ)に磁気センサーを設置し,東京大学が所有している3次元磁気式位置計測システムによって各点の位置計測が可能な人形を設計した. 次に,既に製作した女形の政岡の人形を用いて,3人の人形遣いが協調して1体の人形を遣う際に司令塔の主遣いが発する合図である「ず」の役割を明らかにするために,(1)「ず」のみが使える場合,(2)「ず」と演目情報(どんな人形動作を行うのかに関する情報)が使える場合,(3)「ず」,演目情報,音楽情報(三味線による演奏と義太夫節を指す)が使える場合とで,人形動作を計測して比較した.その結果,(1)の「ず」しか使えない場合でも,基本的な人形動作は実現可能であったことから,「ず」が人形操作において主要な合図としての役割を果たしていることが示唆できた.さらに,動作の型の速度を変化させた場合でも「ず」自体の速度は変わらないこと,左右方向で10cm程度離れた物体を区別できる程度の精度を「ず」が有することなど,「ず」の性質を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気センサーを内蔵した狩野雅楽之介の人形の製作が本年度内に終了する予定であったが,立ち役の人形は女形の人形に比べて金属を利用している部分(例えば,人形遣いが足を操作するための足金)が多く,できるだけ金属を使わないように人形を製作すべく,人形細工師と相談の上で何度か設計図を書き直したため,製作が若干遅れている.しかしながら,平成26年度4月末には人形本体が,6月前半には鬘と衣装が完成する予定のため,研究の進捗に大きな問題は生じない.また,「ず」の性質については,当初予定していた計測と分析が実施できたため,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
狩野雅楽之介の人形の完成後すぐに,政岡の人形と狩野雅楽之介の人形の両者を用いて,人形動作の計測を行い,以下を明らかにしていく.すなわち,(1)立役の人形(狩野雅楽之介の人形)と女形の人形(政岡の人形)とでは,主遣いが発する「ず」に違いはあるのか,(2)経験の浅い主遣いと経験を積んだ主遣いとでは「ず」の出し方に違いがあるのか,を明らかにする.さらに3名の人形遣いの「息が合う」とは,人形遣いの間の生理的な呼吸が同期することとも解釈できるため,(3)人形遣い間の呼吸の同期性,および(4)主遣いの呼吸と,人形動作から感じられる人形の呼吸の同期性を分析し,3名の人形遣いと人形との身体的な関係性を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定では,平成25年度内に狩野雅楽之介のセンサー内蔵人形の本体と,人形につける鬘ならびに衣装が完成し,その支払いを済ませることにしていたが,設計のやり直しにより人形の製作が遅れたため,人形本体,人形につける鬘ならびに衣装の費用が次年度使用額として生じた. 平成26年度4月末には人形本体が,6月前半には鬘と衣装が完成する予定であり,次年度使用額はこれらの費用に充てる予定である.
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