研究課題/領域番号 |
25550002
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境変動 / 環境分析 / 海洋機器開発 / 海洋観測ブイシステム / 極域海洋 |
研究実績の概要 |
前年度に整備したプロトタイプブイを用い、海洋において実際に試験運用を実施した。オホーツク海ウトロ沖の水深約400mの海域において、7月から8月にかけての約一カ月、ブイシステムによる係留観測を実施した。観測に先立ち、本体ブイを係留するプラットフォームとなる中間ブイと切り離し装置、ロープ、アンカーを含めた系全体を整備した。中間ブイには、挙動確認用の基礎環境データを取得するための水温、水圧センサを設置した。知床ウトロの漁業組合の協力により、漁船をチャーターして係留系の設置・回収を行った。一ヶ月間、3回のブイの浮上動作が確認できた。浮上時には、取得データの通信にも成功した。このことにより、ブイに求められる基本的な動作性能を確認することができた。ただし、浮上回数は設定による最大値よりもかなり少なく、この原因としては現場の流速がブイの浮上可能な流速レンジを超えているためと考えられる。
この観測の実施状況を踏まえ、再度オホーツク海ウトロ沖で、結氷を伴う低温海域における試験を11月から実施した。今回の運用では、前回までの試験項目に加え、海氷の存在を考慮した氷直下停止ロジック(氷への衝突を避けるために、海面への浮上はせず降下する)への対応、低温状況下における長期耐久性をチェックすることを目的とする。今回のプラットフォームには、水温、圧力に加えて、流速が取得できるような測器を配置した。また、浮上頻度を高めるため、係留深度や中間ブイから本体ブイまでのケーブル長などを変更した。係留開始から1月の初旬までに2回の浮上・通信を確認した後、1月20日に、ブイは氷直下停止モードへ移行した。これ以降、異常動作のシグナルは確認されておらず、通常動作を継続しているものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところで、ブイが通常海域で規定の動作をすることがほぼ確認できている。また、データの衛星経由の取得も問題なく行った。これまでにない長期間係留での機器の耐性についても実績を得た。中間ブイ系の挙動も、圧力センサーの状況から、ほぼ直立の姿勢を保っていることが確認され、基本的な設計には問題がないことが分かった。こうしたことから、ブイの利用可能性を確認する基本的な要件については、実地に証明することでほとんど達成できた。試験海域における流速がおしなべて非常に速く、ブイがこの条件をクリアできるように設計されていない点では試験海域としての条件は悪いが、適正な海況にある場合で挙動が確認できることと、厳しい条件下でも機器そのものには耐性があること、およびこの海域における海流が速いことが海洋学的には新たな知見であることもあり、順調に成果を蓄積しつつあるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在係留運用中のブイの挙動を引き続きモニタリングするとともに、春季にブイシステム全体の回収を実施する。春季にブイが再浮上した場合、回収時までに、各種のコマンドのテストやデータの回収通信をできる限り実施する。取得したデータの解析により、氷直下停止モードの正常動作を確認やバッテリーの寿命についての検討を行う。
ほぼバッテリーの安全使用限界とみなされる5月中に、ウトロ漁協の協力により、ブイシステム全体の回収を行う。回収が成功すれば、冬期試験の詳細にわたる全データの解析が可能になる。特に、中間ブイに搭載したADCPによる流速データとの比較から、強流速に対するブイの姿勢制御についての解析を行う。また、取得された海洋データから、本海域における海水特性、流動特性の時間変動について解析する。
ブイメーカーとの共同の解析により、ブイの応答に改善に向けた調整を行う。流速とブイの姿勢の対応関係から、強流速下における本体への抵抗の働きを調べる。ブイの姿勢を制御するために、本体中の錘の位置による調整を検討する。また、深度制御範囲の選択が電力消費に与える影響を調べ、電力節減の可能性を追求する。こうした解析から、今後の南極域での展開に向けて、現有のブイシステムを改良・展開できる海域の条件についての細部の検討を行う。特に、海氷に対する通信用アンテナの保護についての対策を検討する。
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